第19章 空虚を埋める

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第19章 空虚を埋める

「んっ、…もぉ」 ベッドがぎしぎしと悲鳴をあげるみたいに軋んで上下する。個室に造りつけのベッドはシングルで、狭い。二人で乗ってその上で交わるには充分なスペースとは言えないし、あまり激しくすると盛大に軋む音がしてひやひやする。別に粗末でも極端に古いものでもないが、そもそもそういう目的で作られたものじゃない。 「眞珂。…あ、ぁ」 今夜はまた一段と執拗だ。少し間が空いたからかな。就活と卒論の合間を縫っての訪問だから、不定期だししばらく音沙汰のないこともある。だけどわたしたちは付き合ってるわけでも恋人でもないし。気まぐれに訪れては交わる、そんな関係でわたしの方は特に不満とかもなかった。 相変わらず哉多の部屋のベッドの上。寝ている牛猫を驚かせないためにお前が声を上げられないようにしてそっちの部屋でしてもいいけど、と打診されたはされたが。 タオルを口に咬ませるとか猿轡とか匂わされたので即座に断固拒否した。受け入れたらあっという間に縛るだの目隠しだのと、絶対どさくさに紛れて一緒に導入されそう。そんなのなくてもただでさえインフレしていく快楽にとてもついていけそうにないのに。 両脚を身体の脇に思いきり持ち上げられて大きく拡げられ、悲鳴混じりに声を上げても容赦なく奥まで何度も突き上げられる。こいつ、どっちかというと可愛い顔してるくせに実際ほんとにえげつない。どこまで女の身体に慣れてるんだろう。 「眞珂。…どう?これ。…いい?」 わたしの身体の上で全力疾走してるみたい。上気した頬と欲情でのぼせて紅潮した目が色っぽいな、と止まらない腰を弾ませて喘ぎながら馬鹿なことを考えた。 とにかく何か答えないとまた更に執拗に苛められる。わたしは中にねじ込まれる熱いものの動きに何とか耐えてもつれる口で喋った。 「わか、…ん、な。い」 「わかってないわけない。…自分で見てみなよ、この腰遣い。正直になれば?…気持ちいいんだろ。めっちゃ嬉しそうにここで。…これ、味わってるじゃん…」 哉多は普段は基本的に優しい。だけどしてるときはたまに意地悪だ。いや大抵常に意地悪、たまに優しいくらいか。 とにかくわたしの口からやたらに気持ちいいって言わせたがる。恥ずかしがったり感じてないふりをすると手加減なしに苛烈になるので始末に負えない。 不意に屈んで強く唇に吸いつき、軽く歯を立ててくる。同時に片手で胸を揉みしだいてから、更に大きく拡げられた前の部分を執拗に弄られて中が自分でもはっきりわかるくらいびくびくっ、と動いてしまいのけぞった。 「あっあぁ、んっ、そこ、だめ…っ」 「は、ぁ…っ、眞珂。きつ、…急に、…締めすぎ。あ、…、っ!」 感極まった声を漏らしてがば、といきなりわたしの上に覆い被さる。両腕でぎゅう、ときつく抱きすくめられた瞬間奴が細かくびくびくと痙攣するのが伝わってきた。 哉多の身体から力が抜け、全身の重みがずんとわたしの上にかかってくる。肺から空気が抜けて呼吸が止まりそうになるくらい圧迫され、きゅう、と変な声が喉から微かに漏れた。 「あ。…ごめんね。重くて…」 すぐにわたしの苦しそうな様子に気づいてもがくように身体をずらした。終わると優しいし、細かい気遣いもしてくれるのになぁ。欲情で我を忘れてるときの哉多ときたら、いろいろと残念である。 「だいじょぶ。…別に。気にしなくて、いいよ」 それでも優しくされるとこっちもつられて態度が甘くなる。好きとか嫌いとかじゃなくて、親切にされたらお返しに親切にしよう。と自然にふるまうその感じに近い。だけど奴はそれを都合のいいように解釈してか、幸せそうに目を細めてふかっ、とわたしを抱きしめた。 「眞珂はかぁいいなぁ。…やっぱりお前が一番可愛いよ、これまでのどんな女の子より」 「はいはい」 内心憮然となる。本人としては最大限のお世辞を繰り出したつもりなんだろうけどね。 これまでの他の女と較べられて嬉しいやつなんているわけないだろ。逆だったらどう受け止めるんだお前。普通に考えなよ、そこは。 奴はわたしの不興を買ったとは思いもよらない様子ですりすりと嬉しげに頬を擦り寄せてきた。 「これまで俺が知ってるどんな仔猫より仔犬より。眞珂がとにかく掛け値なしに断然可愛いから。お前がいれば他になんも要らないよ、俺。最近は身体もこなれてきて。反応もえっちで淫乱になってきたし…」 「人聞き悪いこと言わないで。普通でしょ、よくわからないけど。このくらい別に」 ぴく、と額に青筋が立ちかける。ほんのちょっと、こっちもうっすら気にしてることを。それ以上なんかひと言でもコメントしたらただじゃ置かん。 猫とか犬とかと一緒くたにされたことも大概だが、そっちに言及されたことに全部持ってかれてそこは怒り損ねた。哉多は大したこと言ったつもりもないのか、軽い調子でまあまあ、と笑ってわたしを宥める。 「別にそんな。事実でしょ。今さら恥ずかしがることないじゃん。それにどうせするんだったらさ。感じてないのに歯を食いしばってひたすら耐えてるだけの子より、乗り乗りによがってめっちゃ腰遣って声あげて喘いでくれる子の方が。男だって嬉しいに決まってると思わん?」 「誰が乗り乗りで…、」
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