第20章 予想に大幅に反して重い

2/10
前へ
/21ページ
次へ
身体をぴったりと密着させて、弾んだ息に混じった渇いた声で尋ねられる。 「…キスしていい。眞珂?」 「朝だよ。…まだ」 こっちは仕事中なのになぁ。と内心で思いつつ渋々ながら顔をそっちに向けた。まあ、このためにわざわざ車飛ばしてまでここまで来たんだろうし。多少のことは仕方ない。 せいぜい軽いキスかと思ったら。待ってましたとばかりに頭の後ろに手を当てて引き寄せられ、逃げ場がないくらいがっちりと固めて容赦なく深く差し入れてきた。身体を擦り寄せられ、舌を柔らかく遣われて不本意ながらお腹の奥の方から変な熱さがじんと響いてくる。…こういう身体になりたくはなかったなぁ。今さら後悔しても遅いが。 「…そっちはいいだろうけど。わたし今、仕事中なんだけど」 ようやく唇が自由になり、頭を振って奴の顔を遠ざけてから文句を言う。顔は離せたけど身体の方は意外に力のある奴の両腕でホールドされて自由が利かない。哉多は全く動じた風もなく、笑ってますます身体をぴったりと食い込ませてきた。 「大丈夫だよ、遅れたら俺もその分手伝うし。結局終わる時間は変わんないだろ。ちょっとくらい問題ないじゃん、取り戻せば。…今日俺、泊まれないし」 それはそっちの都合なので。わたしはそれ以上乱されたくなくてじりじりと身体を引き剥がそうと試みつつ言い返した。 「…こんな開けた場所で。くっついてたら誰に見られるかわかんないよ。お屋敷の窓から誰か、たまたまこっち見てるかも。だから」 「あ、そっか。…じゃあ、見えないところなら。別にいいよね?」 あっけらかんと受け応えて軽く腰を屈めたかと思うと、いきなりわたしを抱え上げた。まさかのお姫様抱っこで持ち上げられ、さすがにぎょっとなる。こいつ、こんなに力あったんだ。 奴は前もって見当をつけてたのか、躊躇なくずんずんとわたしを抱えて脇目も振らず運んだ。半分わたしにいい聞かせるつもりか小さな声で独りごちる。 「そこの東屋の中なら。お屋敷からは絶対、見えないよね。なんだ、ちょうどいいものあるじゃん。…今まで気づかなかったな…」 よりによってそこか。 改めてその東屋が初めてこの庭園を訪れて、夜にこそこそと隠れてた場所であることに思い至り何故ということもなく焦った。昼間というか午前中だし。夜じゃないから雰囲気もシチュエーションも違う。隙間から朝の光が差し込んで明るい東屋の中は、特にあの日のことを思い出させる光景とは言えないことも確かなんだけど。 初めてあの人と出会った場所だって考えちゃうと、ここで他の男と変なことになるのは正直ちょっと嫌だな。と内側にぐるりと取り付けられたベンチの上に降ろされてのし掛かられつつ思わざるを得ない。 唇を思いきり吸われて服の上から胸を揉まれる。本気でここでする気じゃないよね。ちょっと、人目のないとこでいちゃいちゃするだけだよね? 屋外でこんなことするなんて人生初だ。ていうかこんな明るい時間帯に、夜中に個室でこそこそするようなことしてるのが違和感満載で。どうにも心の底から自分を開放できる気がしない。 ただでさえ仕事中なのに、って後ろめたさが消えないのに。場所といい時間帯といいシチュエーションといい。ここじゃどうにも、これ以上何かしてほしいって気になれないよ。 と言いたいけど口を塞がれちゃってるしなぁ。どうやって呼吸を弾ませて興奮してることありありのこいつを止めればいいんだろ、と胸をはだけられながら思い巡らす。こんな明るいとこで。露になった胸にここぞとばかりに顔を埋められて、…あ、ぁ。 「ちょっと。…ほんとだめ。わたし、まだしなきゃいけないことあるし。そんな気になれないって、全然」 「そう?…これでも?」 胸の先端をちろり、と舐められて背筋がぞくんとなる。違う、これは。…反射的なただの生理反応だから。感じた、ってわけじゃ。 「だから。…そういうこと、するから」 抗議する声に苦しさが滲む。平然と冷静に押しのけたいのに。…ジーンズのファスナーを下ろされて、そこに指が潜り込んでくるのがわかっても。上手く制止、できない…。 奴の指の腹がそこでぬる、と生温かく滑る慣れた感触に思わずぎゅっと目を瞑って身を縮めた。 「胸舐められただけでもうこんな。…そっか、意地悪言うのはやめたんだよね。大丈夫、苛めないよ。ただ眞珂が気持ちいいように。…優しく、するから」 「あっんっっ、だめ…っ」 指がぬるり、と奥まで潜ってきて軽く悲鳴を上げた。脚を閉じなきゃと思うのに。身体が言うことをきかない。 哉多は興奮を抑えられない声で、そこをまさぐり続けながらわたしの耳に息を吹き込むようにぴったり口許をつけて囁いた。 「可愛いな、眞珂のここ。…俺にこうされたくて。ずっと待ってたんだね。…ここだけじゃなくて。ほら、…ここも」 「あっそこっ、…やぁ、んっ」 だめ。 溢れたものが奴の指や下着を濡らすのを感じながら腰を弾ませて喘いだ。…ああ。 どうしようもなく哉多の身体に縋るようにしがみついてわななくように震える。ここで、感じたくなんか。…ない、のに。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加