第20章 予想に大幅に反して重い

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頭がぼうっとなって口許が緩む。このままじゃ。…指だけで、いっちゃうよ…。 奴がそっとわたしの身体から手を離し、自分の服の前を緩めてるかちゃかちゃいう音でやっと我に返った。 わたしは背中でにじるようにずり、と後退しながら用心深く身を遠ざける。 「ここで。…する気?」 「だって。眞珂だって、したいだろ?」 奴は声を欲情で弾ませて、半分腰から服をずり下ろしながらこちらに迫ってきた。 「こんなに濡らしてるし。もうそろそろいきたいんじゃないの?我慢しなくていいよ。…俺は、眞珂のこと。全部知ってるから。身体も、心も」 いや心のことは知らないと思うよ。全然。 だけど、そんな台詞のおかげで少し冷静さが戻ってきた。わたしは自分の中の切ない渇望を何とか打ち消して、のしかかってくる奴を宥めようと手で制する。哉多の頭越しにあの夜に見てた東屋の天井が、光の量の違いに関わらず記憶とぴったり重なった。 昼だから夜じゃないから、とかそういう問題じゃなく。ここでだけはやっぱり絶対に嫌だ。 わたしは必死でお腹の奥から湧き上がる欲情を振り切り、力を振り絞って声を出した。 「今は駄目。こんな、外で。…明るいとこじゃ。落ち着かないし、なんか。…思いきりできない。するなら、ちゃんと。本気で集中、…したいの」 下から哉多の顔を見上げ、ほんの少し甘える色を滲ませて胸に手を添えて宥めた。 「中途半端は嫌。誰にも見られないとこで、ベッドの上で、全部脱いで。…深く、何度も欲しいの。ここじゃ、いろいろ気になって。何か、…手短でやっつけになりそう。だから」 「うん」 珍しくこっちから積極的な態度を見せたのが効いたのか、奴は何かを飲み込んだみたいに喉を鳴らしてまじまじとわたしを見た。 「そりゃ、…そうだよ。俺だって。中途半端じゃなく何度でも。…眞珂をいっぱい、満足させたい。…けど」 「うん。…だから、こんなとこじゃなくて。ちゃんと部屋に行ってしよ?泊まれないなら昼間でもいいよ。わたし、哉多の部屋に行くから。あとで」 駄目押しに奴のTシャツの中に手を入れてつ、と指先で胸の辺りに指を這わせた。 「久しぶりだから。雑に適当じゃなくて、本気で最初から最後まで丁寧にしてよ。次がいつになるかも。まだわかんないし…」 「うん」 従順な大型犬みたいに大人しく頷く奴の様子に、もう大丈夫かなと身を離して立ち上がった。落ち着いて服を直すわたしを見上げてる哉多になるべく優しく声をかける。 「ちょっと、作業が途中だったから。区切りのいいとこまで進めてから上がるね。どうしよう、部屋に行くのは。午後にしようか?」 「別に。今すぐでもいいけど」 やっぱり途中で止められて身体が疼くのか、どこか未練がましそうに呟く。わたしは首を振って返した。 「だけど、今からじゃお昼の時間が気になっちゃう。食事済ませたあとの方がゆっくり時間取れると思うから。途中で切り上げたりしないで。思う存分できるでしょ?」 「それは。…そうかも」 服を整え終えたわたしの前に立ち、抱き寄せて唇を重ねる。さっきよりだいぶ落ち着いたキスだ。 何とかここでの危機は回避されそうだ。と内心安堵して、わたしは手を伸ばして優しく奴の髪を撫でながら柔らかな声で言い聞かせた。 「そしたら、なるべく早く片付けるから。哉多は先にお屋敷の方に戻ってて。朝から車運転してきて、疲れてるでしょ?」 「別に平気だよ。手伝うよ、お前のこと」 言い張る哉多の背に手のひらを添えて東屋を一緒に出るよう促す。 「こっちはあと少しだから。それより、澤野さん見つけてお昼と夜食べてくこと伝えておいてよ。早めに言わないと哉多の分用意できないよ。それで先にキッチンの手伝いに入ってて。わたしもここ終わったらすぐに行くから」 「うん」 奴は仔犬みたいな顔つきで素直に頷いたあと、館に向かいかけて何かに思い至ったようにこっちに向き直って声をかけた。 「そしたらさ。お預け食らったんだから、ちょっとはオプションあってもいいよね。絶対意地悪言ったり酷いことしたりしないからさ。軽ぅく手だけ、縛ってみてもいい?ちょっとやってみてどうしても嫌ならすぐに解くし。ちゃんと優しく丁寧にじっくり可愛がるから。全然、SMっぽくしないよ。ね?」 何でだよ。と言いそうになりぐっと堪える。よりによってこの東屋で無理やり最後までされること思えば。ちょっと軽く手首縛られるくらいなんてことない、…か。 「うん、…まあ。お試し程度、なら」 奴は元気な仔犬くらい跳ね上がった。 「やった。結構これまで言い出しにくかったから、ラッキー。大丈夫、眞珂が思うほど変態ちっくじゃないよ。みんな結構このくらい普通にやってるし。ちょっとした刺激程度のもんだからさ。…じゃあ、午後は頑張って眞珂を満足させてやるか。部屋が明るいのもいつもと違ってていいよね。楽しみ、いろいろと」 「そんな張り切らなくても。…普通でいいよ」 すっかり気持ちが切り替わった様子の奴に手を振って館の方へと送り出し、わたしは再び作業の続きに取りかかる。
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