第20章 予想に大幅に反して重い

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ちょっと懸念してた通り、奴はすっかり味を占めてあれ以来好んでわたしの手を縛ってことに及ぶようになった。 さすがにわたしが嫌がるのでそれ以上、目隠ししたり口に布を噛ませたりはしないし。縛り方も変にエスカレートはしないから渋々受け入れてはいるけど。 手を縛られていないときより少し、気持ちだけ濡れやすく感じやすくなってるとかは。正直あまり直視したくない事実だ。こんなの、本当は意外に好きなのかもなんて。自分でも思いたくないしこいつに思われたくもない。…なのに。 僅かに開いたそこを指の腹でつ、と柔らかくなぞられてぞくぞくっとなり、軽くのけぞって思わず声を上げる。 「ふぁ、あ…っ。んっ、だめぇ。…そこ」 じっとしてられなくてわななくように身悶えると、自然と脚が緩んで大きく開いてしまう。奴はわたしの機嫌を損ねないことを常に念頭に置いてるらしく、以前みたいにそのことを意地悪く責めたりからかったりはしなかった。その代わりにとにかく全力で何もかもを褒めそやす、って方向に転換したみたいだ。 わたしのしどけなく開いた両脚の間に息のかかりそうなくらい顔を近づけ、うっとりした声で甘く囁く。 「眞珂のここ、ほんとに素直で可愛いね。いっぱいに開いて蕩けて俺のこと、早く来てほしいって求めてるみたい。だけど俺の希望的な思い込みだといけないから。ちゃんと本気で欲しがってるって確信できるまで、丁寧に確かめてあげるからね…」 「んっあぁんっ、もぉ。…そんなの…」 指と口で隅々まで執拗に愛撫され、激しく喘いで悶える。わたしの気持ちなんてどうでもいいから。…早く最後まで終わらせて、楽にしてよ…。 両手が自由にならないまま、胸やそこを弄られて何度も唇を吸われ、奥がじーんと切なく痺れて弾んだ腰が止められなくなる。我ながらあられもない姿を晒してこれ以上は我慢できない、となったところで結局観念して欲情で霞んだ目を奴に向け、脚を大きく開いて声に出して求めた。 「哉多。…もぉ、だめ。…して…」 「うん」 奴はすっかり学習したらしく、余計な口は叩かなかった。ただわたしをぎゅっと両腕で抱きしめて、むちゃくちゃに何度もキスしたあと感極まった声で囁いて覆い被さる。 「するよ、眞珂。…いい子だね」 「んっ、あぁ…っ」 奥まで熱いものでいっぱいに満たされて思わず喘ぐ。感じてることを隠せもせず、焦点の合わない目で夢中で腰を遣ってそれを味わった。 ほんとに気持ちいい。…何も考えたくない。 やっぱりこれ、好き…。 羞恥心も吹き飛んで、お互いめちゃくちゃに腰を動かして身体を深く交わらせた。 やがてわたしが極まってきゅう、と身震いしてそこを締めつけると、哉多も反応してうっと小さく呻いてわたしにしがみついた。背中を震わせて何度か痙攣すると、身体の力を抜いてどっとわたしの上にもたれてくる。 「…あぁ」 その重みで肺から空気が押し出されてくるのが自然とため息になる。…また、やっちゃった。 酷い意地悪や言葉責めがなくなったから以前ほど自己嫌悪に苛まされなくなったとはいえ。こんなこと、いつまで続けるんだろうって気まずい後悔の念はゼロにはならない。 だけど慣れで少しずつそういう感覚もすれてなくなっていく実感もないではない。そのうちこんなのは当たり前過ぎて、面倒なルーティンみたいになっていくのかもしれない。 恋も知らないのに既に身も心もすれっからしになっていくようで、何とも言えない気分。やっぱり本当はこういうことは、特別な好きな人としかしちゃいけないものなんだろうな。 だからといってわたしに、他にどんな選択肢があったっていうのか。そこは今でも正直よくわからない。どのみち後悔してももうどうにもならないし。 すごく大好きな人がわたしにいたとして、そういう相手とだったら何か違う思いがあったのかな。とぼんやり考えてると脱力状態から抜けた哉多がもつれた手でわたしの縛を解いたあと両腕でぎゅ、と抱きついてきてそれはそれでちょっと後ろめたい気持ちになる。 恋愛感情がお互いなくたって、こいつはこいつなりにわたしのことを考えて優しくしてくれる。相手がもし他の人だったらどうだったんだろう、なんてこいつの腕の中で考えるのはやっぱりよくないよな。 どうせ実りそうな恋なんてわたしには訪れないんだからそんなこと全然考えなくていいんだ。と割り切って、わたしの方も哉多の背中に腕を回して体重を預けた。 「…眞珂」 そろそろ部屋に戻らないと。このままうっかり眠っちゃうと朝になるまで目が覚めないと困るな。わたしの部屋のベッドの上で丸くなって寝ている牛柄のふわふわした身体を思い浮かべてほんのりしながらそんなことを考える。 今夜もあの子が寝入るのを待ってここに忍んできた。朝までに戻らないと、起きたときにわたしがいなくてノマドが心細くなったらいけない。 今日は哉多はどうするんだろう。わたしと一緒に向こうの部屋に行って眠るつもりか、ここでこのままうとうとと寝てしまうのか。もう眠気を感じているようなら、わたしを抱いたまますとんと寝落ちするかもしれないな。
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