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口上
私共、亡霊と呼ばれる身の出番は、
何も丑三時と決まっているわけではありんせん。
何故に、この姿に?と
問うて下さる皆様に、
その経緯と由来について、
これからお話しさせて頂きとう御座います。
私お凛と、此処に居ります彼氏の太吉が
もと居た時空は
遡ること遥か彼方の江戸の後期で御座いますが
只今におきましては
昼と夜の間のほんの僅かばかりの時間帯と、
与えられた場所だけで
私達のパフォーマンスが許されるまする。
俗に言う心中カップル、それが私達。
何故に心中という極みをセレクトしたのか、と
お聞きになりたいでありんしょう?
うふっ‥ふふふっ
そりゃあ訳ありに決まっているじゃござんせんか。
元々は裕福な商家の娘として産まれた私、
宿命で言うところの
業が深いタイプなのでござんしょう。
なんちゃらの米騒動で、アッという間に生家は
没落‥おとっつぁんは病の床に。
娘の私は借金の片に花街に売られる、という
お馴染みのパターンを辿りまして‥。
しかしながら、水は合っていたのでござんしょう。
下積みからの数年後には
引く手数多の超売れっ妓。
花吹雪舞う、一世一代の花魁道中、
そりゃあ鼻高々に、過剰なまでに
承認欲求を満たした思い出もございましたっけ。
まさに我が世の春‥でありんす。
ところが哀しきは花は散るもの人間は歳を取るもの‥
ましてやその当時、女の容色の衰えは早い。
アンチエイジングの方法が、
これほど迄に確立されてはおりません故、マジで
今のお方が羨ましい〜からの恨めしい〜。
この世で私共を認識出来る能力、
いわゆる霊感持ちを自覚される方々が
私共を見た時の反応がこれまた、一瞬
目が点になる‥っていうリアクションかえ?
『派手な着物着た異常に若作りの60ぐらいのオバさんと、孫ぐらい歳の離れた男の、スゲエ年の差
カップルの幽霊見たんだけど〜マジで引いたわ』
きっとそんなこと言いなんし?
せめてアラフィフで、
どうかよろしくお願い申し上げ候〜。
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