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鯉の季節
ところで夜の手前は、
その日太陽が輝いていた分だけ、
まるであっという間も無く寝落ちをしたかのように
落差を感じさせるものでござんしょう。
つまり、スーパー銭湯の駐輪場は時々、まさに
黄昏時、ヤバい空間に様変わりするのでありんす‥。
ちょいと失礼して、
「ちょいと、太吉っつぁん。ライトの加減が
イマイチなんし、もっとアチキの顔にダイレクトに
当たるようにしなんし!」
さて、そんなアチキと今や
ライティング担当☆太吉が心中に至るまでの経緯を
これより粛々と、
お話しして参りまする。
表向きは殿方に夢を売る華やかな世界であろうとも、
花魁並びに遊女の毎日は
メンタル、フィジカルともにハードでありんす。
夜明けを告げる鐘の音を合図に、朝風呂にエステ、
昼の部の顔見せ営業に出演すれば、
はたまたリピート客を増やす為に
破戒的で思わせぶりなお手紙もせっせと
書かなきゃなりんせん。
それから、やっと2時間ばかりの自由時間に、
月イチで小間物屋兼薬屋が
化粧品やサプリメントって言うのかい?そんなのを
持ってやって来るのさ。
通販よりもダイレクトでスピーディーがウリの
ドラァグ屋からある日、
「担当変わりました〜」ってやって来たのが
太吉っつぁんだったのさ。
「なんかこう〜見た目めっちゃ若返るサプリとか
MAX肌白くなる軟膏とか無いわけ〜?とにかく速攻で効くやつ持って来てよ、前のやつアカンわ
返品しておくれよー」などと、
日頃のストレスと超☆売れっ子ゆえの寝不足と
忍び寄る加齢の波間でつい、ぶっきらぼうに
無理難題を吹っかけてんのに、なんか
嬉しそうな謎めいた笑みで応えてくれる、
太吉っつぁん‥いつの間にか、月イチのその日が
待ち遠しくなってたんだよこのアチキが‥。
太吉っつぁんもアチキのそんな扱いに
萌えるタイプっつうか
満更ではなかったようで、実は太吉っつぁん
ドラァグ屋の若旦那だったのさ、
そんなこんなある日、置屋の手引きに則り、
禿(かむろ)らを
引き連れて、ラグジュアリー系茶屋の2階の座敷で
新規のお客と出会うことになったワケさー。
アチキの故郷は沖縄さー。
そして、その茶屋の特等お待ち合わせ部屋にて
ご挨拶の口上を述べつつ、おもむろに
男殺し☆流し目光線を浴びせんと顔を上げてみれば、
まあ、なんということでしょう。
そこには、見覚えのある、まあまあ若い部類に
入る男が居たわけさ、
昼から夜に至る狭間の段階的、光のマジックとでも
言うのかねぇ、
月イチのパシリ接客中の、何倍もセクシー見えする
太吉っつぁんだったのさね。
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