鯉の季節

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黄昏は、やがて程なく夜の帳を下ろし 私と太吉をなんの躊躇いもなく、 男と女の仲にしたのさ‥。 お互い遠からず、この日が来るような気がしていたのかもしれぬ。 お金をたんまり頂く以上、サービス担当はもちろん 花魁たる私であるはずだが、 終始、太吉は情熱的かつ丁寧な仕事っぷり‥。 プロとしてのテクニックは当然のこと、駆使できる アチキを差し置いて、むしろ太吉は それを望んではいないふうであったので、 私は太吉の望むように身を預けたのでありんす。 夜明けの鐘が2人の宴に、お開きの時刻を告げる‥。 別れ際に 「‥実はオレ、月イチ担当を外れたんだー」と、 サクッと思いがけないことを告げる太吉。 「‥っそそそそんな〜じゃあこれから例の、 何時だって数量限定☆ローヤルすっぽんマカ人蔘 コラーゲンドリンクは誰が持って来てくれるの さぁ?アレがなきゃ、自慢の肌艶が保てないんだ けどー、マジ凹む〜」 「アレなら次の担当にちゃあんと言っとくよー 心配すんな。」 その時点で、太吉がタメ口きくなんてメッチャ 可愛いってか早過ぎだろっ?って、 ギャップ萌えなる興奮を初めて体感したので ありんす。 その理由は、 アチキを指名する常連の大店の大旦那やら、 お忍びで通ってくる武家の殿様やら、 地位と名誉と金品をガッチリ 手中に収めたセレブ爺氏方というのは さもエラそーな似非頼り甲斐の代わりに 干物を水に浸してふやかしたような、不甲斐なさで‥。 ‥‥。 『フレッシュフレッシュフレッシュ〜♪』 そんな流行り歌が頻繁に巷で流れていた、 そんな遠い初夏の頃の、新鮮な鯉?の思い出で ありんす。 ただ、幸せという陽炎の儚さを その僅かばかり後に イヤというほど思い知らされることになろうとは、 まだ予感すら無かったので御座います‥。
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