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赤蜻蛉
女の季節は常に
足早に過ぎて行くので御座います‥。
季節はとっくに秋の気配を濃くして、私の物思いは
深まるばかりなのでした。
あれっきり太吉とは会っていない。
『ちょくちょく顔出してたドラァグ屋の若旦那、
嫁さん貰ったんだってさ‥』と知ってか知らずか、
仲間うちの一人に耳打ちされたので御座います。
そんなことで動揺などするはずもない‥、
年齢不詳の美貌と謳われるアチキとはいえ、
太吉っつぁんとは、親子ほどの歳の差。
だけどあの朝、別れ際に
『しばらくは来れないと思うがーまた必ず来るから
待っててねー』とホザいていたような気がするが、
やはり単なる社交辞令だったんだねー太吉っつぁん。
その時だった‥ダダダダダダッ廊下を走る音。
駆け込んできたのは名代の太鼓持ち、貼る吉兄さん。
このヒトは膏薬を貼るのが上手い。
『ちょっっっっっえらいこった〜太夫!
金貸し組合元締めの権現氏が殺されたらしいぜ〜〜
この瓦版、見てみなっ!
しかもどうやら仕事人の仕業らしいぜっ』
『仕事人とはまさかあの〜?
クリエイティブな必殺技を繰り出しては悪人退治!
かつて一世風靡したあのプロフェッショナル集団の
ことかい?』
信じらんない‥あの権田権現が‥アチキにとっては
アイツは憎んでも憎み切れない、失意の元この世を去った、おとっつぁんの仇なのでありんした。
長きに渡り、私の人生を狂わせた張本人の死‥、
その一報を聞いて過去を思い感情を抑え切れず、
ぶるぶると小刻みに振動しちまう女がこの花街に
どれほど居ることだろうか‥。
それにしても太吉っつぁん、あんたは今
何処にどうして居るんだろうねー?
カラスが、向かいの屋根でカーカーと鳴いている‥。
命を張った女の季節も、そろそろ黄昏時かねぇ。
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