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僕はその日、君と初めて二人で夜の浜辺を散歩していた。
真っ黒な空にポツン、と一つ浮かぶ月を見ながら、隣り合って歩くその場所は、まさに二人だけの世界。自然と鼓動も早まっていく。
海が傍にあるから、吹く風が強い。暴れる髪を抑えながら君は楽し気に笑った。目を細めて、「帰ったら髪がぎちぎちだあ」なんて言って。
僕はふと、足を止めた。鼓動を抑えるように、そっと胸に手を当てる。
「あれ? どした?」
君が気付いて、遅れながらも振り返る。その無垢な笑顔に、つい目を逸らし、空を見上げた。
そこにはちょうど、月が浮かんでいる。ふと思い出したのは、古典の授業で知った、昔の人の告白台詞――。
それだ、と勢い任せに口を動かす。
「……好き」
――月が綺麗だね。
あれ、と思った時には、もう遅かった。
君はキョトン、とした顔をしたかと思えば、ふっと耐え切れなくなったみたいに、笑い出す。
「突然だなあ」
笑い声に耐え切れず閉口する。彼女はお構いなしに笑い続ける。
「君、結構シャイで、そんなこと絶対言わないと思っていたんだけど」
「そ、そのはずだったんだけど……」
カアっと熱くなる顔をかきつつ、乾いた笑いを漏らす。
だが彼女は、僕に一歩近づくと、少し背伸びをして見上げてくる。
「――私、君のそういうところ、好きだよ」
それはえっと、どっちの意味になるのだろう。首を傾げる僕に、距離を取った彼女は白い歯を見せて笑った。
「ちゃんとした告白、待ってるから」
「じゃ、今日はおやすみ」
言うなり、手を振った彼女は、さっさと背を向けて走って行った。
茫然と立ち尽くす僕を置いて、夜は更けていく。
吹いた風が、まるで背を押すように後ろから強く吹いて、街灯にい照らし出された影が大きく揺れていた。
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