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「あっつ〜……」
空港に降り立ち機内から外に出た途端、湿気をたっぷり含んだ熱気に包まれる。
「12月でこれかあ、さすが南国だな」
まとわりつく生ぬるい空気に触発されじんわりと汗がにじむ。下に着込んだ防寒下着に後悔の念を抱く。
ニューヨーク在住の恵美にとって日本以外の国にいるのはもはや自然なことではあるが、アジアの国特有の雰囲気にはやはり旅情をそそられる。まず、匂い。ダウンタウンまで行かずともすでに、どの国であれしらじらしく同じように見える空港ですら、調味料やスパイス、強い香水や人いきれの入り混じった独特な匂いに満たされている。
「Can you take me to the Grand Holiday Inn?」
「Yes, ma’am.」
とりあえずタクシーに乗りホテルに向かう。はじめはいかにも空港のある郊外といったのっぺりとそっけない灰色だった車窓からの眺めが、徐々に色彩を伴い暮らしの息吹を感じさせるものになっていく。
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