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そもそも庶民派の恵美としてはドミトリーのある安宿でも構わなかったが、アラフォーでまあそれなりの暮らしをしている身としては、若いバックパッカーに混じって過ごすのも気後れするというか、何となく面倒な気がして。
「昔は平気だったのになあ、私も歳とったって事ね」
恵美がはじめて海外に出たのは19歳、まだ若い女の子だった頃。しかも英語もおぼつかない状態で、異国にいきなり飛び込んだ。
*
勉強がよくできた恵美は、親のすすめもあり高校は県でもトップの進学校へ。だから当然のように大学に行くんだと自分でも思っていた。しかし特にこれといって勉強したい分野も見つからず、そんな状態でまわりのみんなと横並びでなんとなく大学に入ってしまうことに、徐々に違和感を覚えるようになっていった。
「お母さん。私やっぱり大学行きたくないの」
「恵美、なに言ってるの? そんな風に受験勉強から逃げようなんて絶対ダメ、あとで後悔したって遅いのよ!」
やっぱりといった反応が帰ってきた。すごいお金持ちというわけではないが、まあまあ資産のある家庭出身、お嬢様育ちの母には、レールをはずれた生き方をする人間を嫌悪するようなところがあった。そう、かつてあの伯父さんを嫌っていたように。
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