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ブツクサ言いながらも恵美は、次のダンボール箱に手を伸ばしガムテープの封をバリバリと剥がす。するとそこには、何十年も昔、まだ子どもだった頃に着ていた服がたくさん入っていた。
「やだ、お母さんたらこんな物まで捨てずにとっておくなんて」
さすがに懐かしく思いながら出してみるとさらに下から、薄汚れたお人形が顔をのぞかせる。いや、よく見ると汚れではない。それは目の粗い茶色の麻布でできたお人形だった。
「あっ、ココちゃんだ! うわー懐かしいな」
まとっているカラフルなワンピースは何十年ぶりという年月を少しも感じさせず、南国の鳥のような鮮やかさだ。毛糸でできた長い黄色い髪の毛がふさふさと、顔のまわりに波打っている。恵美は思わず両手で持ちあげ「ココちゃん」をまじまじと見つめた。キラキラ光る黒いガラス玉の瞳を囲むように、刺繍でまつ毛が縫いつけてある。赤いフェルトの笑った口には、貝で作ったほんものみたいな歯がしっかりと並んでいる。
「そうそう、これこれ。でもあの頃あんなに大事にしてたのに、今までなんで少しも思い出さなかったんだろう?」
お人形としっかり目が合う、その黒いガラスの瞳がキラリと光る。すると恵美は、まるでタイムスリップでもしたかのように、一気に「あの時」に引き戻されていくのだった……
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