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そんなこんなで朝食を食べ終え、間宮さんが運転する車で連れてこられたのはスウェーデン発祥の某家具屋さんであった。
彼はお店に入るなりベッド売り場へと直行し、マットレスの具合をたしかめたり、華ちゃんはどれがいいと思う? とか私に聞いてきたりしていたのだけれど、数十分あまりのうちに
「よし、これにしよう」
と言ってさっさと買う物を決めて、店員さんに声をかけに行ってしまった。
……やっぱり。口を挟む暇もなかったな。流され巻きこまれ体質な自分を少しだけ恨めしく思った。
いや、もう自分用のベッドは諦めるとしても布団ぐらいはねだっておくべきなのか。うーん。でもなあ。
正直なところ、間宮さんの地雷が私はまだよくわからないでいる。下手に機嫌を悪くさせて――彼は榊くんみたいに暴力をふるったりはしなさそうだが、自分が怖い思いや嫌な思いをしたくないのである。
私はそう考え直し、間宮さんが戻ってくるまで適当にあたりをぶらぶらしていることにした。
IKUAに来るのは初めてだった。そもそもあまり家具屋さんにも縁がない。
広大な店内の中には、寝室やリビングなど部屋の用途ごとに作られたショールームがいくつもあったり、家具以外にも雑貨なども並んでいたりした。
「わ、サメだ」
一瞥しただけでは何匹いるかわからないサメのぬいぐるみが、白い籠に積まれて売られていた。収まりきらずに飛び出してしまっている子もいる。
そういえばこれ少し前にネットで話題になってたっけ。実際に見てみると結構かわいいな。
思わずそれで手に取ってしまった瞬間
「なに? サメのぬいぐるみ?」
「あ、ま、優馬さん」
うしろから声が聞こえてきてふり返ると間宮さんが立っていた。購入は済んだようである。
「ああ~前にSNSでバズってたやつか。俺でも知ってる。ほしいん?」
「いや、ちょっと見てただけなので……別にほしいとかでは……」
「でもコイツ実物意外とかわいいんだな。ベッドの上なんもないと寂しいし、買ってこっか」
「え」
彼は私の両手からサメを引っ張るように抜き取ってしまうと、そのまま踵を返していってしまった。慌てて追いかける。
隣接していたディスカウントストアで当面必要そうな日用品も購入し終えた。
「買い物も済んだし、華ちゃんはこのあとどこか行きたい所とかある?」
「そ、そうですね……」
買い物終わったから帰宅、とはならないんだなと考える。
すぐには答えが出てこず気のないような返事になってしまった。
車の中は冷房が効きすぎていて少し肌寒い。カーディガンの襟元を手繰り寄せる。
種類はわからないけれど、マンションの地下駐車場まで降りていってこの車を初めて見た時絶対に高いやつだと思った。しかも外車。右側が助手席ってなんか変な感じがするな。香水の甘い匂いが鼻孔をかすめる。
榊くんの車の中も同じような香りが漂っていたけれど、煙草を吸う分もう少し混沌とした感じがあった。
腕に抱いているIKUAのレジ袋がカサカサと乾燥した音を立てた。なんとなく覗きこむとサメと目があった。
あ、そうだ。
「じゃあ水族館行きたいです」
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