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「なんだ、もう一人いたのか。っていうか怪我してる? 痣とか、それ火傷の跡? 大丈夫?」
「え、あっ……」
彼は部屋に入ってくるなり、隅で震えながら座っている私に近づいてきてそう言った。
外出する時などは上着を羽織ったりタイツを履いたりして隠しているが、私の腕や足には打撲のためにできた痣や煙草を押しつけられてできた火傷の跡などが沢山ある。どれもこれも彼氏にやられたものだった。勿論、胸や背中など常時人目につきにくい場所にもDVで受けている傷は残っている。
「君榊の彼女? 暴力ふるわれてたの? アイツやりそうだもんなあ。こんなかわいい子にほんと酷いことすんね。シメといてよかった~」
「あ、は、はいぃ……」
さっきからまともに話一つできていない。
それはいわずもがな恐怖のせいでもあったのだけれど、目の前の男の子が、喋る時には意外と人懐っこい表情を浮かべていたからだった。いい体つきをしているのも相まって、なんだか大型犬みたいだった。言っていることは物騒だったが。家に上がりこんできた際に垣間見た彼は、両親であろうとも易々と殺せてしまいそうな凶暴な雰囲気や鋭い目つきをしていたように思う。
しかし彼は会話がちゃんと成立していないことなどまったく意に介していない様子で、すっと私から視線を外すと周囲をぐるぐる見まわし始めた。
「お、金庫発見! ここにお金入ってそうじゃん」
やがて彼はベッドのすぐ横に置かれていたそれに目を留めて立ち上がった。間近で見るとますます身長が高かったことに気がついた。百八十近くはあるだろうか。
彼は金庫まで近づいていって、扉に手をかけガチャガチャしてみたのだけれど開かなかった。当然である。一応は鍵がかかっているんだから。
「うーん、やっぱり番号わかんないと開かないかあ。しまったな。気絶させる前に聞いときゃよかった」
今叩き起こすか、金庫ごと持って帰るかでも柊さんに余計な荷物増やすなよって怒られそうだよな。枚数ここで確認しといたほうがいいかもしれないし。
などと彼がぶつぶつ呟いているのを聞いているうちに私は
「……あ、あの、暗証番号なら知ってますけど」
「え、マジで!?」
もうどうにでもなれという思いで、その言葉を口にしていた。
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