怪しい目線

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 パンケーキで膨れたお腹を撫でながらお店を出た。  間宮さんが「せっかくここまで来たんだしついでに洋服屋さんとかアクセサリーショップとか寄ってく?」と聞いてきたので、私は時計をチラリと見てまだ一時をまわったばかりかと思い、そうしましょうかと答えた。休日なのに家に帰るにはまだ早い時間だ。  何軒かお店を見ていたところで 「ちょっとごめん」  間宮さんは急に踵を返すとショップを出ていってしまった。小走りしつつパンツのうしろポケットからスマホを取り出したので電話がかかってきたんだなと思った。  しばらくは商品を見て待っていたけれど、特にめぼしい物もなく私もお店を出てきてしまった。  その後も間宮さんはなかなか戻ってこなかった。  遅いな。仕事でトラブルとかでもあったんだろうか。   ――ヤクザの仕事でのトラブルってなんかあんまり考えたくないけどな。例えば、バイト先での小さなミスとかとは大違いなんだろう。規模の大きさとか。その実際の内容は想像もつかないけれど。  まだしばらくはこないような気がしたので、その間にトイレに行っておこうと思って来た道を引き返した。  出入り口にさしかかったところで、ちょうどトイレから出てきた人と出会い頭にぶつかりそうになって私は慌てて端に寄った。 「あ、すみません」 「あれ、鈴代さんまた会ったね」 「え」  スマホにむけていた視線を上に移す。  そこには草川さんが立っていた。  二回も会うなんて偶然だなと思っていると、彼女はゆっくりとした動作で自分の鞄の中に手を伸ばすと黒色のスプレー缶を出しそれを突然私の顔の前にかざしてきた。  蓋はない。取ってあった。噴射口はこちらをむいている。  草川さんが寂しそうに呟いた「ごめんね」という言葉の意味と状況を理解する前に、私の記憶はそこで途切れてしまった。
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