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より一層顔を近づけられて彼が凄んできたその時、再び部屋の外から足音が聞こえてきた。
ドタドタと激しい足音。あれ、と思った。前にも一度、こんなことがなかっただろうか。
朝。鳥のさえずり。バターの焦げる匂い。
私の名前を大声で呼ぶ声。
扉が先ほどよりも更に激しく開けられた。
「間宮さん……!!」
最初は幻覚とか幻聴かと思った。絶望から現実逃避するため、自らの脳が見せているそれなのではないかと。
けれど、彼が改めて目の前で「華ちゃん!!」と私の名前を呼んでくれた声を聞いて現実だと確信した。幻覚でも幻聴でもない。
間宮さんが私を助けにきてくれたんだ。
「おいおいおいなんでここがバレてんだよ! 早すぎねえか!? 携帯はトイレで草川に捨てさせたはずだぞ!!」
「ほんっとお前おめでたい頭してんな。華ちゃん守るのに携帯にGPS一個じゃ足りるわけないだろ。服にも仕込んであんだよ」
――榊くんが間宮さんに完膚なきまでにやられたことはまだ記憶に新しい。
呼吸をする間に彼は昏倒させられてしまった。以前よりもものすごい音が聞こえたのは、間近でその光景を見ていたからだけではなかっただろう。
「さ、華ちゃん。帰ろっか」
間宮さんがそっと手を差し出してくれる。甘い笑みを浮かべながら。
数秒前まで自分の命が危うかったのがまるで嘘のような雰囲気があたりに漂い始めていた。
私が間宮さんの手を握ろうとした時
「……あ」
開けっぱなしだった扉の外の廊下に影が見えた。
ぬるりと部屋の中に人が入りこんできて
「間宮さん危ない!!」
「え」
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