深夜、病院にて

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深夜、病院にて

「はい、華ちゃん。コーヒー飲めたよね?」  顔を俯けていた私の目の前にさっと缶コーヒーが差し出された。  反射的に顔を上げる。  珍しく少し疲れたような表情をしている上遠野さんが目の前に立っていた。 「ありがとうございます……」  受け取りながら腕時計に目を走らせると、もう少しで日付が変わるというような時刻になっていた。  椅子に座りながら少し眠ってしまっていたかもしれない。 「ごめんね。遅くなっちゃって。なかなか終わらなくってさ」 「い、いえ大丈夫です」  ――間宮さんが、突如現れた草川さんにバールのような物で殴られたあと、実は一緒に来ていたらしい上遠野さんによって私たちは救い出され、病院にむかっていた。  間宮さんの頭部からは鮮血が止めどなく流れていた。隣に座って背中をさすっている間、彼はずっとなにやらうわ言を呟き続けていた。  上遠野さんは病院に私たちを送り届けると、他の組員たちに指示やら自ら後始末をつけると言って再び出ていってしまった。  間宮さんの手術はものの一時間ほどで終了した。担架で運びこまれたときは戦々恐々としていたのに、すべて終わってしまったらなんだか呆気なかった。自分が誘拐されたことも含め、なんだか一日中夢を見ていたようだった。  プルタブに指をかけ、飲み口を開ける。一口飲むと、コーヒーの苦味がまるで現実へと意識を引き戻してくれるような気がした。
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