823人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「ねえ、僕が前に言ったことって華ちゃん覚えてる?」
「え」
上遠野さんはそっと私の隣に腰かけてきながら聞いてきた。
この人は派手な見た目やタッパが大きいわりに、所作や動作が細やかだ。物心ついた時にはすでにそれらが身についていたような自然さがあった。
――上遠野さんが前に言ったことってなんだ。
えーと、ああ、あれか。わかった。思い出した。以前、彼が家にやってきた時のことだ。
上遠野さんは言った。
「あんまり深入りしすぎないほうがいいよ」と。続けて
「実はそれだけじゃなくって」と気になる言葉も残していたのだった。
結局、その時の私はなにも尋ねられなかったわけだが。
「華ちゃん? 大丈夫?」
思考の海に沈んでいたのが、上遠野さんの声で現実へと意識が引き戻された。
こちらを覗きこんでいる彼の瞳から、病院の白い天井へと私は視線を移しつつ
「あ、ええとたしか、前に家に来られた時のですよね。それだけじゃないって。その、ヤクザだけが理由じゃないって」
「うん」
最初のコメントを投稿しよう!