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私は天井から上遠野さんのほうへと再び視線を戻した。相変わらず彼はこちらに顔をむけていたが、先ほどとは違ってその瞳にはなにか決意のようなものが浮かんでいるように見えた。
上遠野さんは一度ゆっくりと深呼吸をしてから、言った。
「優馬には妹がいるんだ」
「へ」
「――いや、正確には“いた”かな。華ちゃんとさ、似てたんだよね。顔とか雰囲気とかが」
「それって……」
間宮さんに妹さんがいたのは初耳だが、もっと驚いたのはそのあとの彼の言葉だった。
似ていた。顔とか雰囲気とかが。
そうか。
私はふと思い出した。
以前、リビングを掃除していた時に見つけた写真。髪の毛を短く切りそろえた今よりも少し若そうな間宮さんと、セーラー服姿の女の子が映っていた。
――あの少女の正体は間宮さんの妹だったのか。
「だから初めて華ちゃんに会った時はびっくりしたんだよね。しかも優馬は連れて帰るとか言い出すしさあ」
「……あの、妹さんは今はどうしてらっしゃるんですか」
「亡くなっている」
それを言われた瞬間、薄々勘づき始めていたことが決定的になっていくのを感じた。
間宮さんが私によくしてくれていた本当の理由。それは、私と妹さんが似ていたからだったんだ。
温かい食事も。清潔なベッドも。穏やかな日常も。優しいまなざしも。
なにが「一目惚れ」だ。
妹さんの代わりだっただけじゃないか。ただの。私は。
別によかった。優しくしてくれるのなら、誰だって。そうだったじゃないか。
上遠野さんだって釘を刺してくれてたのに。
なのにどうして。
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