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来たれ夕立
“ポッ、ポッ、ポッ…ザッ、ザザザー!”
暗い空がゴロゴロと唸りをあげて大粒の雨を降らしてきた。梅雨も明けた七月末の午後の蒸し暑い空気はこの夕立によって瞬時に冷やされて、心地よい風として地上を吹き抜ける。この風が乾いたアスファルトを雨が濡らした時のあの何とも言えない独特の臭いを彼女の所まで届けてきた。
「きたきた。今日も時間ピッタリね」
彼女は最近お気に入りのお天気アプリを観ながら微笑んだ。このアプリの予報は今のところ百発百中で、今日この時も予報通りに夕立が降ってきたのだ。
彼女は縁側に座って雨の降り具合を確かめ始めた。そしてその降り具合に彼女は満足そうに笑みを浮かべているのであった。
すると一人の男がずぶ濡れになりながら彼女の座る縁側の軒下に走り込んできた。
「ただいま!いやー、今日も今日とてひどい夕立だよ」
「おかえりなさい。待ってたわ」
彼女はこの夕立に打たれてずぶ濡れの彼を優しい言葉で迎え入れた。そして準備していたバスタオルをポイッと彼に投げ渡した。彼はゴシゴシと頭から上半身を雑に拭くと、そのバスタオルを四つ折りにして彼女の隣に敷いて、その上に腰を下ろした。
「いやー、いつもすまないね」
「良いのよ。気にしないで」
「それにしても、このところは準備が良いね。いつもタオルを用意して待っててくれるし」
「最近ダウンロードしたお天気アプリが調子良いの。前日にはいつ頃にどれくらいの雨が降るかが分かるから、仕事の都合をつけて待ってられるの」
「へぇー。それは良いね」
その時であった。
“ドンッ!”
「キャッ!」
轟音と共に向かいのビルの屋上に設置されている避雷針に激しい閃光が走った。その落雷に彼女はつい声を出し、身をかがめて怖がった。そんな彼女を彼は少し揶揄うように言った。
「フフッ、君は相変わらずだな。大丈夫!俺がいる限り雷なんてここには落とさせやしないよ」
そんな彼の言葉に彼女はムッとした顔をして言った。
「あなたにそんなこと出来ないでしょ?そんな権限も無いだろうし、それにどうするつもりよ?」
彼はばつが悪そうに答える。
「ま、まぁ、そうだけど…。でも、そう言う、なんて言うか、僕はいつもそうゆう気持ちで、君を思っているって事だよ!」
「もう!あ、そんな事よりこの間ね…」
二人は一週間ぶりの再会を実に楽しんでいた。だが、そんなどこにでも有りそうな二人だけのささやかな幸せな時間はあっという間に過ぎていったのであった…。
黒い雨雲で覆われた空が徐々に明るくなるのに比例して雨は次第に弱まっていった。
「雨、止みそうだな…」
彼女はスマホでお天気アプリを確認した。
「後、三分くらいね…」
二人の表情は回復傾向の空模様とは逆に曇っていってしまった。そして三分あっという間に過ぎていった…。
「あ、止む…。じゃあ、また来るよ…」
「うん…。待ってるわ。また夕立の時に…」
夕立が上がり、雲間から夏のギラギラした日差しが顔を出した瞬間、彼はフッと消えてしまった。彼女は今の今まで彼が座っていた縁側を悲しそうに見つめるだけであった。そして、込み上げてくる怒りと悲しさをいつも思わず声に出してしまうのであった。
「何よ…!お盆とかお正月じゃなくて、夕立の時にしか戻って来れないなんて…。馬鹿じゃないの⁈」
この後しばらくの間、彼女の天気も激しい夕立に見舞われた。これも毎回の事である。終
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