童貞ハラスメント

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あの日、僕は落ち込んでいた。 大好きなアイドルのスキャンダルが出てしまったから。 デマじゃなかった。正直、またかよと思った。 売れない時からずっと応援して来た推しだったから、ショックだったのは当然なんだけど、更に僕を落ち込ませたのは、相手も有名アイドルだったこと。 結局、人間は顔とお金なんだよなと思ったのを覚えてる。 んで、さらに悪いことに仕事でミスった。しかも立て続けに。 だからその時の僕のメンタルはボロボロだったんだ。 といっても、僕の仕事はそこまでの量があるわけじゃない、かといって業務が難しいわけでもない。本来なら、早々問題は起こったりはしない。 ただ、夜間の勤務の問題は、生活のリズムが崩れるから集中力を欠くことが多くなるし、その時は連勤だったってこと。 勿論、それでもミスしない人はしないし、こなせる人は容易くこなす。 でも僕は、そんなに仕事が出来るわけじゃないし、物覚えもいい方じゃない。 大好きで生き甲斐だったアイドルのスキャンダルに気持ちが落ち込んで、その上、夜間の連勤で集中力も欠いていた。 ミスる条件が整い過ぎていたんだ。 その当時の僕にとってアイドルの彼女は全てだったからね。 時々へんな薄笑いを浮かべてしまうほど、その時の僕のメンタルはヤバかった。そんな時だ。 「おはようございます」 「お、お、おおはようございます」 不意にされた綺麗な人からの挨拶にキョドリながら、当然の如くいつも通りの上擦った声で、動揺しまくった挨拶を返した。 僕の人生において美人に声を掛けられたことなんてないから、当たり前だろう。それでも何とか笑顔を作ろうとした。 きっとその時の僕の顔はとんでもなくキモち悪かっただろう。 そんなものを見せてしまって申し訳ない限りだ。 でも彼女は全く嫌な顔を見せることなく笑顔だった。 そうさ。一瞬だよ。心奪われた瞬間だ。 で、それまでの全てが吹っ飛んで、スゲー元気が出た。 学生の時は、全く相手にされない現実から二次元にしか興味を向けなくて、やっと現実の女の子に興味を持てば、アイドルのオタクになって。 そんな僕が現実の女性がどれだけ素晴らしい存在なのかを知った瞬間だった。 だから僕は彼女に感謝してるのさ。勝手にね。
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