明日

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私は衝動にかられた。 早く死んでしまいたい、地球なんてすぐにでも無くなってしまえって叫び狂った。身近にあるもの全てが嫌になった私。 仕事でミスをした私。話す気にもならない。上司にこっぴどく怒られた。 「君、ちゃんと仕事やってる?! やってないからこうなるんだろ!!」 立派なパワハラな気もするのだけど。毎日毎日、同じことの繰り返し。怒鳴られては修正、怒鳴られては修正。何度やってもダメ。そんな私を、彼は見下してくるのだ。 他の社員も助けてくれない。あの上司に絡まれるのは嫌なのだろう。 私って、独りぼっちなの……? 責められ続ける毎日に、私は泣き叫んだ。全てが嫌。生きたくない。死んでしまいたい。私が生きてても何の貢献にもならない。 もう、私にはなんの気力も無い。今すぐ消えても後悔は無い。 ああ、疲れた。なんで私だけあんなに言われなきゃいけないの……。 翌日も当然出勤した。当然の事ながら、怒鳴られた。 今日、死のうか。 仕事が終わり、家路につく。心は無だった。 正面から歩いてくる、家族連れ。遠くに見える、人だかり。みんな笑顔。幸せそうなの。私もあの輪の中に入りたかった……。 その時、その家族連れの輪から、こちらに向かって女の子が走ってきた。 「こぉーんにっちは!」 幼稚園児なのだろうか。可愛らしい声で、挨拶してきた。 「こんにちは」 その女の子は、背中にランドセルを背負っていた。嬉しそうにしている。 「こら、そっちに行かないの!」 すかさずその子のお母さんが止めに入る。 「すみませんね、うちの子、若い女性に興味津々なようで」 「いえ、大丈夫ですよ」 短いやり取りを済ませると、その家族は引き返していった。 私はあの女の子が印象的だった。 ランドセルを背負った女の子。嬉しそうな女の子___。 あ、そうか、明日は小学校の入学式だったかな。今日の日付は4月5日。遠くの坂道に小さく見える桜の木には、もう桜の花は付いていなかった。 入学式を目前に控えて、家族で散歩してたんだね。 あんなに嬉しそうにして。ランドセルまで背負って。 あの女の子にとって、明日という日は特別な日。あの子も、あの子の家族にとっても。 私にとってどんなに苦痛な明日でも、誰かにとっては特別な明日。 私は、あの女の子に救われた気がする。今、地球なんか無くなってしまったら、世界が終わってしまったら、誰かにとって大事な毎日を奪ってしまうって気づけた。 私が苦しくても、きっと誰かは幸せ。 私が世界の中心じゃない。自分なんか死んでしまえっていう自己中な考え方に、恥を覚えた。 ___私にとって苦痛な明日も、誰かにとって特別な明日___ END
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