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マリアの正体
「えー、村井祐也さん殺害容疑で逮捕した松浦美樹容疑者ですが『未来予言に殺される』等の意味不明な供述を繰り返しております。
ちなみに供述にあった住所を当たりましたが「Future prophecy」なんて占いの店はありませんでした。
松浦容疑者の部屋からは『村井祐也と今井綾香の浮気』を調査した写真と興信所の調書が多数押収されてますので、その線の遺恨が動機かと思われます」
この捜査報告は速やかに受理された。
***
「……松浦容疑者は『マリアという女性から譲り受けた薬を用いた』等の不確かな供述を繰り返しておりますが、この女性の身元は判明していません。
違法薬物なども見つかっておらず、警察は松浦容疑者の精神鑑定を行う方針です」
ラジオから流れるニュースを聞きながらマリアは紅茶を一口啜った。
「身元不明だなんて失礼だこと。店名をよく見れば分かるでしょう?」
彼女は膝の上の黒猫に語りかける。
「『Future prophecy』に『rophe』が含まれるなんて、誰も気付きゃしないさ」
黒猫は興味なさげに言った。
「Ropheとはヘブライ語で『癒し』『治癒』という意味を持つのよ。私の真名はこの言葉を語源としているわ」
「だったら名前負けじゃねぇか。今回の客も『癒し』とは程遠い、悲惨な結末だったぞ」
「だから人間は愚かで愛おしいのよ。
ちゃんと『3回まで』と教えても、決して守れやしない。
守ってさえいれば聖母マリア様の名のもと、祝福が与えられたことでしょうに」
マリアは美しい顔を綻ばせた。
「私の真名はラファエル、3大天使の1人で『薬剤師、盲人、病人、精神障害、旅人』の守護者。
残念ながらこの世はまだまだ私の救いを求める者たちで溢れているわ」
机の上のノートパソコンが夕暮れの部屋に白い光を放ち、存在感をアピールする。
「さぁ、次の客人をお招きしましょうか」
マリアは白い指でキーボードを叩いた。
占いの館「Future prophecy」
サイトをひとたび開けばほら。
今日も迷える蝶々が甘い薬に群がってくる。
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