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雨だ。
夕立か。
「しまったなぁ、やっぱ素直に傘持ってきとけばよかった」
人影もなくなった高校の玄関先で言葉を漏らした。
今日は生徒会の資料作りが終わらず、下校時間の5時を過ぎたところで急いで帰り支度をした。朝から雨の予報もあったせいか、いつもは部活終わりの生徒がまだまばらに歩いていてもおかしくないのだが、皆、今日は早めに切り上げてしまったようだ。
「仕方ない、ダッシュで帰るか」
そう心に決めて、勢いよく足を踏み出した。
二歩目を踏み出した時点でズボンの太もも部分にずっしりと水気を感じる。
こりゃ、相当濡れるぞ。
玄関から、校門までの距離は50メートルというところか。
校門に着く頃にはもう全身びしょ濡れで、髪から水が滴っている。
そこで俺は急に足を止めた。
人気のなくなっている校門の先。制服姿の女子が立っていた。淡い水色の光を纏って。
慣れない光景に息を呑む俺。ほんの一瞬だったと思う。だけどその一瞬の間にその女子の体は頭からドロドロと溶け出し、降りしきる雨の中に溶け込んでいった。
何が起こったのか理解が追いつかない。混乱する頭で女子の立っていた場所に恐る恐る近づく。何もない。のだが、雨の轟音に紛れて声が聞こえる。
「あー!きっもちいいーーーー!!」
明らかに人の声だ。空耳の類ではない。だけど校門近くに民家はないし、人影もない。何より、音の出どころがすぐそばだ。俺は驚いて思わず声が出た。
「誰っっ!?」
「きゃーーーーー!?」
驚いた俺の声に逆に驚いたような女子の甲高い声。その声にまたしても肩がすくんだ俺の目の前に青白い光の雨粒が集まってきた。瞬く間に足元に溜まった雨水は泥状に人の形を成していく。
目の前に先程の制服姿の女子が現れて気がついた。
「水沢……さん?」
隣のクラスの水沢雫。ちゃんと話したことはないけど、ロングヘアーの綺麗な女子だ。
「あ、たしか生徒会長の……っていうか、見た?」
唐突な問いに頭がついていかない。俺から出た言葉はひとことだけ。
「みた」
「あちゃー、やっちゃったよ……。ま、いっか」
全然表情が変えられない俺と対照的に、太陽みたいに笑う水沢さん。
これから俺と水沢さんに起こることを、この時は想像もできなかった。
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