妹が私の婚約者様にお手紙を出したようです

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妹が私の婚約者様にお手紙を出したようです

わたしのお姉様は酷い人なんです。 わたしより3年早く生まれただけなのに、上から目線でわたしにあれこれ命令してくるんです。 肌の露出はダメだとか、人前で大口を開けてはいけないとか、男性にやたらベタベタと触ってはいけないとか。わたしが可愛くてモテるからって嫉妬してそんな事を言うなんてとんでもないと思うでしょう? わたしのお姉様はずるい人なんです。 なんとわたしより3年早く生まれてきて、わたしが生まれるまでの3年間、両親や使用人たちの愛を独り占めしたんですよ。 だからわたしはその3年分お姉様より愛されるべきだと思うんです。だからお姉様の宝石もドレスもわたしが貰ってもいいはずなのに時々顔をしかめるんです。どうせわたしの物になるんだから素直に渡してくれればいいのにわたしの美しさに嫉妬してなかなか渡してくれないんです。そうやって嫌がらせをするような人なんですよ。 わたしのお姉様は意地悪な人なんです。 わたしより3年早く生まれたからってわたしより先に成人し、わたしより先に婚約者を作った事があるんです。 わたしだって成人の祝いのパーティーに新しいドレスを着て出席したかったのに、わたしはまだ成人してないから出席出来ない。なんて意地悪ばかり言うんです。未成年がこのパーティーに出るのはマナー違反だとか難しいことを言ってわたしを騙そうとするんです。お姉様ばかり綺麗なドレスを着るなんて許せないからパーティーの前日にそのドレスを切り裂いてやりましたけどね!結局お姉様はわたしのお下がりのドレスを着てパーティーに行き、恥をかいたみたいですけど……わたしに意地悪するから自業自得だと思います。ざまーみろですね! わたしのお姉様は血も涙も無い人なんです。 わたしがお姉様の婚約者に一目惚れしたから相手を譲って欲しいとお願いしているのに、ダメだって言うんです。 わたしは本当の真実の愛を知ったと言うのに、妹の純粋な気持ちを踏み躙るなんて酷いと思いませんか。きっとお姉様には思いやりというものが無いのですわ。通常の人間なら妹のために涙を流して喜ぶべきでしょうに。 わたしのお姉様は極悪非道な人なんです。 今までわたしがお姉様の宝石やドレスを欲しがったらいつも譲ってくれたのに、どれだけお願いしても婚約者だけはどうしても譲ってくれないんです。 だいたいお姉様のように地味で不細工で頭ばかり良い女なんてすぐ捨てられるってなんでわからないのでしょうか?わたしはお姉様のためを想って言っているのに全然わかってくれません。人の思いやる気持ちがわからないなんて人間として終わってると思いませんか。 可愛いわたしがこんなにお願いしてるのに頑なに拒否をするお姉様にわたしは我慢の限界をむかえました。だってあまりにも酷すぎますもの。わたしはこんなに可愛いのに、酷い姉に虐められているなんてまるで悲劇のヒロインです。 だから、あなた様からわたしを奪いに来てください。お姉様に婚約破棄を突き付けてわたしを新しい婚約者にしてくださる日をお待ちしています。 追伸 お姉様を断罪なさるのはクリスマスパーティーでわたしをエスコートしながらなさるのが効果的だと思いますわ。素敵なドレスと宝石を贈って下さいね。 あなたの真実の愛の相手より *** 「ーーーーって内容の手紙が届いたんだが、これどうしたらいいかな?」 困った顔をしながら一通の手紙をもて余している婚約者様。ちなみに二人目です。 「申し訳ございません。どうもあの子は被害妄想と思い込みが激しくて……」 手紙の内容を聞いてうんざりしました。だって私の一人目の婚約者だった方にもほとんど同じ内容の手紙を送ってましたもの。まぁその方は手紙の内容を信じて私に婚約破棄を突き付けてこられましたけれど。 あれは大変でしたわ。新年を祝うパーティーでエスコートしてくれないと思ったら妹と一緒に現れて突然の婚約破棄宣言ですもの。 だいたい私とあの方の婚約は親同士の政略的な物でしたし、あちらの方から申し込まれての婚約でしたのに妹と浮気した上にあんなお目出度いパーティーであんな事をするなんて……頭に虫でもわいていたのかしら?と思うくらい滑稽でした。 なんでしたっけ……そうそう、妹を虐めた罪で婚約破棄するから家から出ていけ。妹と結婚して俺が跡取りになる!でしたっけ。あ、ちなみに私は伯爵令嬢でその方は男爵令息でしたわ。婿養子に入って頂く予定でしたのよ。うちには家を継ぐ男子がおらず、たまたまお父様のお友達が次男の婿入り先を探しておられたとかで……おじさまはとても良い方だったのですけど、息子はゲスでしたわね。 伯爵家を継ぐのはあくまでも長女である私の婿様です。妹と結婚しても家は継げませんわ。 まぁ、そんな男に未練もなにもないので喜んで婚約破棄しましたわ。なんでも妹と体の関係まであるとかほのめかしてましたもの。結婚前にそんな関係になるなど貴族としてもってのほかですし、ましてや婚約者の妹に手を出したのです。……破滅ですわよね? その方は男爵家から勘当され平民となり、妹からも捨てられました。 ちなみに妹の言い分は「わたしは騙されてたんですぅ。あの人は伯爵家を乗っ取るつもりでわたしを利用しようとしたんですぅ」です。それでまかり通るはずがない。と思うのですが、両親はなにかと妹に甘いのでまかり通ってしまったのですわ。外聞を気にしたんでしょうけど、どんなに嘘で塗り固めても噂は広まりますのに。これも貴族社会の七不思議ですわね。 とにかくそんなわけで私は婚約破棄しました。なぜか別れ際に「見捨てないでくれ」とすがられましたが知ったことではありませんわ。男爵家の方からは謝罪と慰謝料もいただきましたし、もう関係ありませんもの。だからちゃんと「私は妹を虐める酷い人間なのでしょう?そんな思いやりの無い女などと結婚するつもりはない。とあなたがおっしゃったんですから、望み通りになって良かったですわね?」と笑顔でお伝えしましたよ。優しいでしょう? 相手の浮気が原因とはいえ、公の場で婚約破棄を宣言された令嬢はもはやキズモノです。新しい婚約者などもう現れないだろうと諦めていた頃……今の婚約者様が名乗り出てくれたのですわ。 「また、悪い病気がでたようですわね」 「聞いてはいたが、目の当たりにするとすごいものだね」 婚約者様は乾いた笑いをしてから、その手紙をテーブルの上に置きます。もはや触っているのも嫌なようですわ。 「あら、でも確かに妹は私と違って愛らしいですわよ?殿方の庇護欲をそそるのだとか……。礼儀や常識を知らない所も天真爛漫で心の綺麗な純真な令嬢だからだと、学園でも評判でしたわ」 それに比べて私は……学園にいた頃から成績優秀ではありましたが、可愛げがないとか隙が無さすぎるとか、女としてなにかが欠けている。とよく陰口を叩かれていましたもの。前の婚約者の方も同じ事を言ってらっしゃいましたからよく覚えております。 すると婚約者様は「うーん」と顎に手を当て少し悩んだように視線を動かしました。 「確かに君はなんでもそつなくこなすからね。天真爛漫と比べられたら勝てないだろうな」 そこまで言われてチクリと胸が痛みます。日頃から妹と比較されては言われ慣れている事とはいえ、婚約者様から言われるとやはり気になりますね。 「可愛げがなく、申し訳ございませ「だからこそ、僕は君がいいんだ」え?」 想像もしてなかった言葉に驚くと、婚約者様はにっこりと微笑みます。 「それに僕はどんな君であれ君が良いと思ったから婚約を申し込んだんだよ。だって君は僕の初恋の相手だからね」 「!そ、そんなこと……初耳ですわ」 「そうかい?それならこれからはもっと聞かせてあげるよ」 そう言って私の長い髪をひと房手に取ると、そこにちゅ。と、軽く音を立てて唇を落としました。 「……っ!」 私が思わず赤くなると、その反応を楽しむかのようにクスクスと笑うのですわ。 「もうっ、私をからかわないで下さいっ」 「愛しい婚約者殿をからかうのは僕の特権だろう?」 そうして婚約者様が指で合図を出すと、壁際に控えていた執事が妹の手紙を手に取り……暖炉の火へと放り込んでしまいました。 婚約者様は手紙がパチパチと音を立て一瞬で黒く染まり灰と化すのを見ながら「くだらない内容だとよく燃えるね」と呟くのでした。 「さぁ、明日のクリスマスパーティーが楽しみだね」 「はい、とても。では明日の朝までドレスと宝石は婚約者様が預かっていてくださいませ」 妹はだいたい同じパターンで動きますが、今回はドレスをプレゼントされるのを待っているみたいだから私のドレスをまだ奪いにはきていません。でも婚約者様から贈り物がないと知れば必ず奪いに来るでしょうからね。 「わかっている。朝一番に迎えの馬車をよこすよ」 こうして私は流行遅れの古いドレスを箱に詰め婚約者様の屋敷を後にしました。 翌朝、私の部屋を荒らした妹が綺麗にリボンをかけられた箱を手にニヤニヤと笑っています。 何時だと思っているのでしょうか。まだ陽も昇りきってませんよ。 「お姉様!この箱の中身はクリスマスパーティーのドレスでしょう?これはね、お姉様にではなくわたしへのプレゼントなの!間違えないでちょうだい」 「いいえ。それは昨日、私が婚約者様から頂いたものですよ」 「だからわたしへのプレゼントなの!お姉様にはわたしのお古のドレスをあげるわ!」 そう言って自分の古くなったドレスを私に投げつけ箱を持っていってしまいました。その中身はあなたが投げつけたドレスよりさらに古いドレスですけどね。まぁ、ある意味アンティークドレスですから一周回って斬新かもしれませんが。 そうして私は動きやすい服装に着替え、最低限の荷物を持って屋敷を出ました。タイミングよくお迎えの馬車も来ましたわ。 私は伯爵家を捨てることにしました。 妹のワガママも、そのワガママを許す両親と妹可愛さにそれを黙認する親戚たちにも、もううんざりなのです。だから伯爵家とは縁を切って婚約者様の元へ嫁入り致します。 さようなら、私が産まれ育った屋敷……まぁ、なんの未練もありませんけれど。 *** そしてクリスマスパーティーが始まり、婚約者様は私をエスコートして下さいました。そして私と結婚して領地を納めると宣言なさりました。 みんなが祝福してくださる中、ひとりだけ騒いでいる人が……あぁ、妹ですね。私から奪った古くさいアンティークドレスを着てます。年代物ですから生地は上質な物なのですがサイズも合っていないし妹には似合っていません。自分でもわかっているはずなのにそれでも私から奪ったドレスだから私を悔しがらせるために着るのですからたいしたものですわ。 なんでしょう「そんな結婚認めない」とか「その男はわたしの物だ」とか叫んでますが……あ、警備兵に引きずられるようにして連れていかれました。やっと静かになりましたね。 こうして私は婚約者様と無事に結婚し、今では幸せに暮らしています。 え?婚約者様は何者かって……。 その正体はこの国の第5王子様です。王子ではありますが王位継承権の順位は低く、無いも同然と言われておりますし御本人も王位には何の興味もないそうです。ですから王族から抜け、侯爵位と領地を頂いたそうなのですわ。 たぶん妹は私の婚約者様だからこそ欲したと思うのですが、もしかしたら王族の仲間入りが出来るとも考えてたのかもしれませんね。 そういえばあれから妹も結婚したそうです。言い寄ってくる男性がいたようで良かったですわね。まぁ、その後伯爵家が破産して取り潰しになったと風の噂で聞きましたので録でもない男だったのだろうことは確かですが。詳細は知りません。私宛に妹から手紙は来るのですが全て暖炉の中へ直行しておりますから。 「くだらない内容の手紙はよく燃えますわね」 「本当に」 ここは寒い地方ですから、妹も少しは役に立ちましたね。なんて言ったら妹にまた「酷い姉」だと言われることでしょうけど。
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