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「つらいよね」
涙が溢れそうになった。いや、溢れてる。
「泣くことないよ」
「だって……」
「ああ、いやごめん。お涙ちょうだいしようと思ってこんな話したんじゃないんだ。違うんだ。私は思ったのよ。どうしてなんにも言ってくれなかったのかなあ。いったいなにがあの子をあんな抑揚のない冷たい世界へと引っ張り込んだのかなあ。十四歳のときの私、そういうことをずっとずっと何回も何回も考えたんだけど、考えても考えてもぜんぜんわかんなかったんだよね。それで、私がひとつだけわかったのは、人は死ぬんだなってこと。私もいつか必ず死ぬし、ヒダカさんだっていつか必ず死ぬ。だから死ぬときになって後悔するような生き方はしたくないよね。ああ、なんかぜんぜんおもしろくない話でごめん」
「意外だった」
「ん?」
「倉橋さんは、考えてるんだね」
「私って、なんにも考えてないように見えるでしょう?」
「そ、そうじゃないけど」
私は顔を左右に振った。
「なんか、流行りものとか、髪型とか、服の話しとか。そういうのを最優先に考えてる人なのかなあと思ったから――失礼だよね。なんか、ごめん」
「別にいいよ。それもまあ、私だし――」
倉橋さんはアイスコーヒーを喉に流し込んだ。それから倉橋さんは「うーん。そうかあ」とうなづきながら遠い目をした。
「髪と服かあ。まあ、なりが派手なのは自覚してるけどね」
たははと倉橋さんは笑った。
「これは変質者を撃退するための魔除けなんだ」
「変質者? 魔除け?」
「そう。変質者対策。私さあ、嘘みたいな話だけど、小四の夏ごろにはもうその辺の大人たちより胸が大きかったんだよね」
「ああ。それ、なんかわかる」
「わかるっしょ。中学になってもまだどんどん大きくなり続けた。それで中二になる頃には今とほとんど同じぐらいの大きさになってたんだ。夏なんか薄着だから、とにかく変な大人たちが虫みたいに寄ってきて気持ち悪くてさあ。私は色々考えたのよ。見た目を派手な感じにすれば痴漢避けになるんじゃないかなと思って。それで地味で控え目だった見た目を百八十度変えてイメチェンしたら、なんとなんと大正解。不審者みたいなのにぜんぜん狙われなくなったんだ。けっきょくさあ、ああいう不届きな輩ってのは、根が卑怯に出来てるから反撃されそうな感じの派手な雰囲気の女子にはいっさい手出ししようとしないのよ。サラリーマンの酔っぱらいだってそうだって言うし。酔っぱらいは繁華街で気弱そうな蒼白い学生に喧嘩をふっかけたりはしても、ヤクザや半グレみたいなヤバそうなのには絶対に挑んだりしないでしょう。人は見た目の印象って大事なんだよ。私の外観の派手さは武装なのよ。自分自身を外敵から守るためのね」
「いいこと聞いた」
「別に大した話じゃないけどね」
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