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「あのさあ、倉橋さん」 「ん?」 「努力すれば胸って大きくなるかな?」 「ならないよ」 一刀両断。あまりに潔いストレートな反応に、私は半笑いするしかない。 「ヒダカさんは、胸大きくなりたいの?」 「いやあはは。なりたいです」 「大胸筋は努力して鍛えれば胸板は厚くなるだろうけど、それと胸の大きさは別なものだし。ヒダカさんはボディビルダーみたいなムッキムキの身体になりたいわけじゃないんでしょう?」 「うーん。筋肉は欲しくない」 「でしょ? 胸の発育は身体を鍛えるのとは関係ないっていうし。とにかくストレス溜め込みやすい人はあんまり大きくならないらしいから、気楽に過ごすのがいちばんなんじゃないかな。っていうか、私としてはヒダカさんみたいな体型の人が逆にうらやましいんですけど」 「本当に?」 「本当に本当だよ。身軽そうだし、爽やかだし、うらやましいかも」 「うらやましいかなあ。私を真横から見たら、どっちが前でどっちが後ろかわかんないよ」 「それはないでしょ。さすがにどっちが前でどっちが後ろかぐらいわかるでしょ。ヒダカさん面白いねえ」 倉橋さんは「あはは」と笑っている。笑いながらなにかを思いついたらしく、倉橋さんは身体を前に乗り出した。 「ねえねえヒダカさん。私たちの見た目をそっくりそのまま交換し合えたら面白いかもね」 「それいいね。一日交代でとりかえっこしたいよね」 「したいよねえ」 倉橋さんは目を細めて笑った。倉橋さんの笑い声は軽やかで心地よくて、まるで音楽のようだ。 「もうすぐ夏休みだね」 「そうだね」 「夏休み前に文化祭があるね」 「そうだねえ」 「楽しみだよね、ヒダカさん」 「うん。私、お笑いのステージが楽しみなんだ」 「トビタたちも毎日真剣にコントの練習してるみたいだからねえ。楽しみだよね」 「すごい楽しみ。お笑い大好き」
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