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「そういえば」
倉橋さんは思い出したように言った。
「トビタやアンドウは入ってないけど、うちの学校にもお笑い同好会があるみたいだよ」
「本当に?」
知らなかった。まったくの初耳だ。
「トビタたちはどうして同好会に入らないんだろうね」
「うーん」
倉橋さんは唸りながら、ストローでアイスコーヒーの氷を突いた。グラスが「からん」と涼しげな鈴の音を鳴らした。
「トビタたちから聞いた話だとさあ、最初は入ろうと思ったけど、やっぱりやめたんだって」
「なんで? なんで?」
「入部説明会のときに上級生の部員たちとなんかあったみたいだよ」
「なんかって?」
「さあ。なにがあったんだろうね」
「気になる!」
「トビタは気難しいとこあるし、きっと上級生部員たちとそりが合わなかったんじゃないのかな。まあ、事情を詳しく聞いたわけじゃないから、実際のところは私にもよくわかんないんだけどね」
「お笑い同好会かあ」
トビタが入部しなかった理由はともかくとして、なんだかとても気になる部活ではある。
「ヒダカさんは、お笑いに挑戦してみたいの?」
「まだわかんない。でも、コントとか漫才は好き」
「廊下に部員募集のポスターが貼ってあるよ。中途入部大歓迎とか書いてあるし。きっと、部員は男子ばかりなんだろうから、一年生女子のヒダカさんが説明を聞きに部室を訪問したらきっと喜ばれるんじゃない?」
時間が過ぎるのは早かった。倉橋さんとは学校でもこれまでほとんど喋らなかったのが嘘のように自然と話が弾む。倉橋さんと互いに手を振って別れる頃には、私たちの関係は昨日までとは明らかに違ったものになっていた。これから続く毎日の中には倉橋さんがいる。高まる期待で胸がいっぱいになった。
「あゆみ――これが私の下の名前」
「良い名前だねえ倉橋さん。私の下の名前はねえ、ミライだよ」
「ヒダカミライ。へえ、未来っぽくてカッコいい。ってかそのまんまの感想だ」
倉橋あゆみは笑った。私も笑った。
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