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「お笑い同好会に入りたいのか?」 体育の着替えのために更衣室へ走ろうとそわそわしながら、トビタが首から上だけを私に向けている。 「絶対にやめといたほうがいい」 「どうして?」 「それはだな……」 声のトーンを落として言いかけた。 「おーい。トビタ」 アンドウとイガワが呼んでいる。 「急げ急げ。早く着替えて集合しないとオニガワラにどやされるぞ」 アンドウたちが手招きしている。 「とにかくだな、お笑いをやりたいんならお笑い同好会なんかに入ってもダメだ。自力で相方を見つけてコンビやトリオを結成するのがよっぽど近道だ。そもそもお笑い同好会というのはだなあ、あれはまったく違う……」 「トビタ、早く早く! ひとり遅れると連帯責任なんだぞ」 「じゃあ、俺行くわ。男子体育の小笠原先生って集合に遅れるとうるさいんだ」 走り去ってゆくトビタたちの後ろ姿を見送っていたら、お笑い同好会に対する私の興味はますます膨れ上がってゆくばかりとなった。 「……積極的だよねえ」 「……いじらしいわ」 「……いかにもガツガツしすぎててさあ、みてるこっちが恥ずかしくなるよねえ」 「……しっ!」 「……ヒダカさんに聞こえちゃうって!」 ――もうしっかりと聞こえてますが。 青山さおり軍団たちが私を横目に見ながらヒソヒソ話してる。私は彼女たちを見ないふりして、今いる場所からそそくさと離れて遠ざかった。 結局、私はトビタやアンドウたちをそれきり捕まえられなかった。なんだかすっきりしない。ぬらぬらした気分のまま、ずるずると放課後を迎えてしまった。 後ろの席では深川みさきが妙にそわそわした様子で帰り支度を始めていた。みさきの表情はなにやらとても楽しげだった。口許なんか、にやけているようにさえ見える。 「ねえねえ、みさき。一緒にお笑い同好会を見学に行かない?」 誘ってみた。友達だし。 「ごめん、実はさあ」 深川みさきは、私の耳元に顔を近づけて囁いた。「このあとすぐ、撮影のバイト入れてるんだ。マイクロビキニを着ての写真撮影。報酬は、なんと、二時間で六万円なの」 みさきはなんだか優越感に浸ったような眼差しで私を一瞥している。 一瞬、言葉につまった。でもそれはほんの一瞬だった。 「ねえ、みさき。私さあ、なんだかすごい心配なんだ。そういう撮影のモデルを募集してるアマチュアカメラマンの人たちって、本当に大丈夫な人たちなの?」 言った次の瞬間には、私は深い落とし穴に落下していた。私はただただ自分の軽率さを呪った。みさきの顔が、まるで嘘のように、今まで見たこともないような絶望的な表情に変わったからだ。
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