01 パスケースとグラス

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 ※ ※ ※ 「まじかー! で、くららはなんて返事したん?」  「いただきます」をしてから十分後。  今日の女子会のハイライトとも言える特ダネが始まった。  数日前にあった学年レクの帰り、くららが他クラスの男子に告白されたらしい。  くららは学年の女子の中でも圧倒的にかわいいのに、浮ついた話を聞いたことが今まで全くと言っていいほどなかった。  いや、圧倒的にかわいいかもしれない。  わたしが男子だったと想像すると、不用意にくららにアプローチするのにはかなり勇気がいる。  そんな高嶺の花であるくららが、ついに告白されたと。 「うーん、それがね……」  身を乗り出した夏希の質問に対し、くららが困ったように目を泳がせる。 「あたし、その……れ、恋愛? とかしたことないからさ。『好き』ってどういう気持ちなのかよくわからなくて」 「ほんでほんで?」 「『告白はうれしいけど、あたしどうしたらいいかわかりません』って答えたの」  くらららしい、そしてますます男心をくすぐりそうな返事だ。 「それで、冨樫(とがし)くんはなんて?」  イタリアンサラダの最後の一口を飲み込んでから尋ねると、くららが不安定な口調で続けた。 「お試し期間を三ヶ月ほしい、だって」 「お試し期間?」  聞き返したわたしに対しくららが頷く。 「うん。今すぐ付き合わなくていいから、メッセージでやりとりしたり、ときどき一緒に出かけたりしようって」 「なるほどなあ。ほんで、三ヶ月ってのはなんか意味あるん?」 「十二月に文化祭があるでしょ? 文化祭で優勝して表彰台で告白するから、そのときに返事してって言ってた」 「ひゅー! 冨樫のやつ、あのジンクスを使うのはずるいでー!!」  目をぎゅっとつぶって囃し立てる夏希。  創立から十五年しか経っていないわたしたちの高校にも、すでに「伝統」と呼ばれているものがある。  それは、「文化祭のクラス別出し物で最優秀賞を取り、その表彰台で好きな人に告白すると恋が叶う」というジンクスだ。  なんとも使い古されたベタベタな習わし。  だけど、やっぱり行事での公開告白というのは盛り上がるらしく、去年も二年生の野球部男子がバレー部女子に告白して成功していた。  まさに、くららのような学校のアイドルのためにある伝統だ。  わたしみたいな二軍には関係のない世界。   「へー、そうなんや! 冨樫かあ……。有名人やけど、ちゃんと話したことないからよーわからんなあ」    流れに置いていかれないように耳で会話を追いながら、テーブルの上の二人の食事を順番に見た。  ほとんど食べ終えている夏希。まだまだパスタの大半が残っているくらら。  食べるのが遅いくららがいるおかげで、とりあえずわたしが最後になることはなさそうだ。
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