プロローグ

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プロローグ

 「自分らしく」生きることが許されるためには、一つの条件がある。  それは、「好かれる力」があること。  スポーツや芸術、勉強など、なにかの分野で秀でているとか。  人と話したり、人をまとめるのが上手いとか。  あとは、容姿に恵まれているとか。  「この人と一緒にいたい」 「この人と一緒にいると、いいことがある」  周りからそんなふうに思ってもらえる、なんらかの力。  そういう力を持っていれば持っているほど、自分の言いたいことを言ったり、やりたいことをやることが許される。  ときに、他人に迷惑をかけたり負担を強いたとしても。  (ひるがえ)って、「好かれる力」の乏しい人間——例えば、わたし——は、他の人の前で自分を色濃く出すべきではない。  役にも立たない、癒しになるわけでもない無価値な人間の個性なんて、他人にとって不愉快なものでしかないから。  だからわたしは、窓ガラス。    無色透明な窓ガラスのように、そこにあるということを必要以上に意識されずに生きる。  自分のできる範囲で、求められた役割を果たしながら。  ノイズを立てないように、誰かの視界を妨げないように。  ——11.17 美津島(みつしま)火憐(かれん)
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