01 パスケースとグラス

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 それから夏休みの話になって、夏希が数学の課題について愚痴っていた時だった。  パリンッ! 「ふわっ!」  陶器が割れる音、一瞬遅れてくららの悲鳴。  さっきまでくららが口をつけていたグラスが、テーブルの下で危険物の群と化している。 「すんませーん!」  すぐに店員さんを呼び、テキパキと片付けを始める夏希。ワンテンポ遅れて、夏希を手伝うわたし。動揺して口をパクパク動かすくらら。  三人でいるときによくある状況だ。    くららは遅刻魔なだけじゃなくて、こういうドジを踏むことも多い。   前にディズニーランドに遊びに言ったときにはスマホを落として大騒ぎしたし、この前の理科の実験でも試験管を割っていた。  くららがミスを犯すたび、わたしは「これをやらかしたのが自分だったら」と想像してひやりと背筋が凍る。  くららがドジを踏んでも許されるのは、くららだからだ。  これがわたしだったら、みたいな地獄絵図が出来上がるだけ。    テキパキしっかりものの夏希と、ふんわりかわいいくらら。  どちらもかけがえのないわたしの親友だけど、二人と一緒にいると、自分という人間の不器用さに胸が痛くなることがある。  要領よくみんなを引っ張る能力か、おっちょこちょいでも許されるキャラクターか。  そのどちらかでもあれば、わたしだって、友達といる時にもう少し楽でいられるのかな。 「二人ともありがとう!」  わたしたちを交互に見ながら、くららが柔らかく笑う。 「ったく、きいつけーや!」 「よかった、よかった」  この顔が見られるなら、それでよかった。    グラスの水を一口飲んで、テーブルの中心に近い位置にそっと置いた。  
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