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それから夏休みの話になって、夏希が数学の課題について愚痴っていた時だった。
パリンッ!
「ふわっ!」
陶器が割れる音、一瞬遅れてくららの悲鳴。
さっきまでくららが口をつけていたグラスが、テーブルの下で危険物の群と化している。
「すんませーん!」
すぐに店員さんを呼び、テキパキと片付けを始める夏希。ワンテンポ遅れて、夏希を手伝うわたし。動揺して口をパクパク動かすくらら。
三人でいるときによくある状況だ。
くららは遅刻魔なだけじゃなくて、こういうドジを踏むことも多い。
前にディズニーランドに遊びに言ったときにはスマホを落として大騒ぎしたし、この前の理科の実験でも試験管を割っていた。
くららがミスを犯すたび、わたしは「これをやらかしたのが自分だったら」と想像してひやりと背筋が凍る。
くららがドジを踏んでも許されるのは、くららだからだ。
これがわたしだったら、あのときみたいな地獄絵図が出来上がるだけ。
テキパキしっかりものの夏希と、ふんわりかわいいくらら。
どちらもかけがえのないわたしの親友だけど、二人と一緒にいると、自分という人間の不器用さに胸が痛くなることがある。
要領よくみんなを引っ張る能力か、おっちょこちょいでも許されるキャラクターか。
そのどちらかでもあれば、わたしだって、友達といる時にもう少し楽でいられるのかな。
「二人ともありがとう!」
わたしたちを交互に見ながら、くららが柔らかく笑う。
「ったく、きいつけーや!」
「よかった、よかった」
この顔が見られるなら、それでよかった。
グラスの水を一口飲んで、テーブルの中心に近い位置にそっと置いた。
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