これ練習?居ないよ、よそ見して走る人なんて、本番で!

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私の視線の先にキャプテンが居て、こっちを向いて欲しいなと回り込むと、その先に桐葉がいて、いっつも気にしてない顔なのに、冬馬君を見てる時だけマジな顔で、あの人はそんなの邪魔だって笑いながら、私の走ってるフォームは「ロバ」だって言って、さっと置き去りにしてた、あの時も。 どこかで見たような、昔見たような、目の前に広がってる懐かしいような光景。 「あいつ」のことばっか目で追って、自分がどんな格好で走ってるのか、全然分かってない、不器用で不格好な「自分」たち。 風が砂を巻き上げて、私の、他の3人の視線を邪魔してきた。 目に入った砂を、顔にへばり着いた砂を、必死で顔を振って、手で払って、隙間から覗いた「あいつ」からの視線、ほんの一瞬だった。 いつから?意識しなさ過ぎる、しょうもない時間、たぶん1年はあった。 それまで「3人」の距離は等間隔で、少しの余裕と、多少の緩みで出来てた、そんな気がした。 「二人」と「ふたり」の間には、互いに「一人」がすっぽり収まる位の、スペースがあった、気がする、私の分も。 それが、「あの人」が来て1年で、おかしな距離が出来ていた、手で掴めると思ってたのに、少し手を伸ばせば、簡単に笑ってくれると思ってたのに。 もどかしい、もどかしい、、、もどかしい! はっと、息を一気に吸って吐いて、くらっと来たけど、踏ん張り効かせてキャプテンの背中めがけて、ダッシュしてた! 「うわっ!なにするんだよ、いきなり!」 「はあっーって、うわーって、、、」 「なんなの、おかしいよ今日の日向?」 砂浜に腰を着いた杉岡さんと、顔からめり込んでた私。 とにかく、どうかしてたい!なんでって、どうにかして!って答えが言いたいし、聞きたい、出してみたい。 「アホ、だな、、、長瀬」 「なに、、、」 「なんだよ、笑って?」 「なんでもねえよ!おい、あいつ助けないで良いのか、杉?」 「お前はどうなんだよ?」 少しの間をおいて、「あの人」が近づいてきた。 ふっと、笑ってた、私の顔を見て。今までまともに顔を合わせた事なかったから、余計に気になった、気に入らなかった半笑いのこの人が! 「なんで笑うの!」 「な、なんだよ、長瀬!」 「止めなよ、どうしちゃったの長瀬さん?!」 「止まるな、走れ!ぼさっとするな!」 砂まみれの顔で、私は諸手刈りの要領で冬馬の脚を取って、砂浜に倒した。 煮え切らない二人を見てたら、余計に腹が立った!良いなよ、どっちからだって良いから、怒らないから私、いっつもあっちばっか見てるの、ずっと知ってたから、別に関係ないし。 でも、、、 見てるだけ、おかしな距離取ってるだけ、流れる風任せで、誰かが背中を蹴り飛ばさないと、全然前に進まないって、もう許せなかった、自分が。 「二人して、なんなの!どっち見てるの、あんたたち!見てるだけ!半笑いしてるだけ、どうかしてるの、そっちじゃない!」 風が動いた、私の中で、空の雲が大きく、歪んでた、息を吐きながら。 頭の中が沸騰してる、顔の横を冷たい風が吹き抜けてくるのに、全ぜっん冷めてこない、余計熱くなって、溶岩が噴き出してる。 「お、おま、、、え」 私に馬乗りにされて、動かない彼冬馬、ずっとこっちを見てる、けど私はどくつもりは無かった。 「おかしいよ、今日?」 私の手を引っ張って、杉岡さんがやっと引きはがした、その手も払って、今度はこっちと向き合った。 「はっきりしたら、どうですか!」 「な、なにを?!」 「どうなんですか、って聞いてるでしょ、キャプテンに!」 「ちょっと何やってるの、日向!」 砂浜の様子がおかしいと、慌てて戻ってきた桐葉の姿に、視線を移し駆け寄ろうとする杉岡さんを、やっぱり私は目で追うだけだった。 桐葉は冬馬君に駆け寄ろうとして、砂に足を取られて倒れた。松葉づえだ、砂浜の上を歩く方がおかしい。 桐葉の束ねてた長い髪が、解けて風に流されて、あの人の顔に着く。迷惑そうに手で払う、杉岡さんの手は、どちらともなく宙を舞う、目は桐葉を追ってるのに、、、 この見えない壁が、縮まらない距離が、走り出さない、走り出せない自分と気分が、嫌いだった、ずっとずっと。 私は、急に暗くなった空に向かって、砂を両手で掬って投げつけながら、何度も吠えてた。 「止まるな、どこ見て入ってるの!」って。 砂浜に、大粒で染みが出来てきた、夕立が来た、また。
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