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長い、長い、上り坂の、途中にて。
ぬるい風、下からゆっくりと迫る、どこか煮え切らない。
暑苦しい日差しと、茜色の黒い雲と、冷たい南風と、ぬるい境目の無い、雨粒たちの。
今朝8時17分、気まぐれな入道雲たちは、真っ先に機嫌を損ねた。
まるで、私「長瀬日向(ながせひなた)」の態度に腹を立てたように、、、
「雨、、、傘出すけど」
「大丈夫、先に行ってて長瀬さん、俺たち遅れてくから。ちょっと滝本さんあれだし足の具合、この坂長いからなあ高校まで」
「気にしない、先に行きなよキャプテンも、日向(ひなた)も一緒に。濡れちゃうから早くしないと、私と一緒だと、遅いから歩くの」
「朝立か道端で、、、杉」
「ちょっ、なんだよいきなり、柳斗(りゅうと)!」
「冬馬、、、くん」
「長瀬、、、おい?」
「、、、ん、え?、、はい?あ!鞄、中身出てる!」
「お先、濡れてるぞ雨に、滝本」
「あ、りゅ、、、冬馬(とうま)、くん、、、」
「転ぶから、慌てないでよ桐葉!まだ、松葉づえなんだよ」
「長瀬さん傘差して!あーあとちょっとで校門なのに、なんで雨降ってくるかな、早くしないと、ほら!」
「私に構ってると、杉岡君も雨にやられるよ、日向もグズグズしない」
「トロい、滝本」
「いや!誰、押さないでよ、傘と杖が桐葉に刺さる所だったのに!」
「お前何やってんだよ、柳斗、ワザとだろ女子二人の背中触って、知らん顔して、セクハラだろそれ!」
「キャプテン杉、しっかりやれ、お前が悪い」
「男子キャプテンです、女子部員はカバー外です!」
「す、杉岡君!今揉めてる場合じゃ?」
「大体休みすぎなんだよ、柳斗は、部活馬鹿にしてるだろ。顧問の野田先生だってしっかりやればって言ってるのに」
「フン、、、」
「も、もう雨の降り酷いよ、早く行かないと。学校着く坂の途中でもめ事起さなくても、毎日。桐葉も私も水没し始めてるし」
「、、、知るか」
「とにかく、私、、、あっ!」
「滝本さん、危ないって!松葉杖の先が、側溝の蓋に挟まってるよ!」
「大丈夫だから、これぐらい自分で」
「頑張れ、杉ー」
「無責任だぞ、柳斗、大体お前が絡んでくるからだろ、なんとかしろよ、お、お前には責任無いけど、だけどさ、、、」
このままだと、雨に貫通されて本当に下着が透けるとかで済まなくなる。
「おおっ、長瀬さん?」
「あっ日向!」
「余計だろ、長瀬」
「もー毎日毎日、どうしてうちの陸上部はチームワーク抜群なの!協調性とか、仲間の為とか、考えてよ!」
私は、3人の背中だかお尻だかを、無理やり坂の上の校門まで一気に押し上げた。
長い髪を束ねた、バランスの取れた長身の「滝本桐葉(たきもときりは)」と、集合の悪い癖の髪と、丸いメガネの「杉岡恭太(すぎおかきょうた)」キャプテンと、ボッサぼさの髪に、ネコ科の鋭さと怠け癖を着けた「冬馬柳斗(とうまりゅうと)」と、丸っこい顔に全力疾走するロバこと、私。
ぬるい雨は、黒い雲たちとの間に、晴れ間を刻み込んだ、ほんの一瞬だけ。
冷たい風が、私の首筋をヒンヤリ駆け抜けた。短い髪も濡れた制服も、ぐちゃぐちゃになった靴も。
暑苦しい太陽は、まだ遠く、入道雲の先を照らす。
7月19日、朝、8時36分、湘藤台高校陸上部部室にて長瀬日向。
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