これ練習?居ないよ、よそ見して走る人なんて、本番で!

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怒られるの通り越して、呆れられた、さっさとシャワー浴びて風呂入ってこい!と言われて、風呂の栓がしてなかった、蓋は開いてた。 「終わったら、食べろ、腹空いてたら、力出ないだろ。総菜屋の方は良いから、さっさと風呂入って着替えてこい、風邪ひくぞ、ひなた」 父「長瀬弘樹(45歳)」は、私と正反対の大柄な体格、を持て余す商店街の総菜屋をしている、元柔道経験者だ。 どうかしたのかと、聞かれる事もなく、びしゃびしゃに濡れた制服と靴の事も聞かず、父はさっと店の出入り口から、私を中に通してくれた。 顔を合わせられない、なんとなく視線を避けながら、二階の自分の部屋に逃げ込んだ、一階のダイニングからはカレーコロッケの匂いがする。 いい匂いだ、いつもなら簡単に負けて、さっとコロッケを摘まんでる。 でも、今日はそんな気になれない。 ベッタリ張り付いてる制服を体から剥がして、ベッドに倒れ込み、扇風機のスイッチを強風にする。 顔間近に来る、唸る扇風機の音、気持ちを静めてと頼むと、余計震わせる風。 動かなかった、人に走れとか、動けとか言ってたくせに、自分だけが何となく宙ぶらりんになってた。 寝れない、起きれない、起きたくない、寝たい、気持ちが空回りする。 気分、もちろん、最悪の三歩くらい手前。落ち切る方がよっぽどマシ! 喉の奥に引っかかった魚の骨が、奥歯に挟まったイカの刺身が、心の一番下に隠してある本音が、つっかえて、通らなかったご飯が。 「なんでだろ、なんで、、、」 ずーっと、吹っ切れてない、振り切れてない。モヤモヤする気持ちが、どこからか蒸気みたいに湯気出して沸いて、抑え込もうとすると、ポーっと噴き出して来る、全身の毛穴から! 「おーい、どうするんだ夕飯は?先に食べてるぞ、こっちは店番長くて、腹減ってるんだ!」 一階から父の呼ぶ声、あれをやるときは、とっくに食べ始めてる。 「後で、、、」 いつもなら「グー」とお腹が鳴るのに、今日に限って全然反応しない。 「はっきりしろよ、要るのか、要らないのか?困るんだよ、片付けるの俺なんだからな」 何か、引っかかった、父からもそう言われるの。 言われて、頭の底になんか「カーっ」っとなってる、火を着けてるはずなのに、燃え上がらない、湿った焚火みたいな煙だけ出てる、曇った私。 何でこんな腹立ってるんだろ!何でこんな燃え切らないんだろ、何で、って聞いてるのに、どこからも答えが聞こえないんだろ、だろ! バンってベッドを叩いてた! 気が付いたら、学校のジャージに、ヨレヨレの黄色いTシャツ着て、一階へ駆け下りてた。 「出かけてくる!」 「待て、ひなた」 「良いから、大丈夫」 「駄目だ、腹減ってる時は、ロクな事は浮かばない」 と、カレーコロッケを無理に私に食べさせた。 「余計だって!」 「心にガス入ってないで、どうやって走るんだよ、お前は!全然違うんだぞ、ここ一番踏ん張る時は」 「ありがと、、、」 「あんまり遅くなるなよ、母さん困るからな、お前の世話じゃ」 「軽い散歩だよ、コンビニまで近所の」 そう言って、私は履き潰した靴を直し、歩きだした。さっきの雨で風は冷たいと思ったのに、もうぬるくなってる。 纏わりつくヌルっとした風と共に、歩き出し、早くなり、商店街を抜けた頃には、置き去りにしてた。 近所の公園まで、幹線道路出て、走って、歩いて、息を切らせて、喉の奥に引っかかったのが何なのか、分かるまで走ってやるって、、、 学校までって、行く前に自販機の陰で休んでた、情けない。 喉カラッから、、、あっと思う前に、スマホも財布も、忘れてた。 恨めしそうに自販機を睨んでる、あっつい、空気がまた着いてくる、嫌になる。 「今度学校で返してね、長瀬さん」 「きゃ、、、杉岡、、、さん」 自転車に乗った杉岡さんが、自販機にお金を入れてた。ガッコンと音がして、スポドリが落ちてきた、また、ガッコンと一本。 「付き合ってよ、勿論行くよね、夜遊び?」 「え?」 「決まり!」 「お、お金無いけど?」 「良いよ、体で払って貰うから」 「え、あ、ちょっと、そういうのって!杉岡さん!」 断る時間もチャンスも見つけられないまま、私は杉岡さんと一緒に夜の散歩をする羽目になった、かなり走らされる。
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