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「酷いよね、酷きくない?酷すぎない!」
幹線道路を走る車のライトが、私と杉岡さんの影を浮かび上がらせる。
壁に、柱に、植え込みに、光と影が二つ四つ、重なって一つとぼんやり映る。
自転車を押しながら、脇を歩く私に、気を使う事も無くスマホ片手に、本気モードで語りだす杉岡さん。
「ねえ、なんなの俺って?」
「ま、まあ、、、そうなんでしょ」
「好きって」桐葉から言われてるんだから、付き合ってるんですよね、どうぞ楽しんでくださいよ、って言いたい所、止めてる。
「これ見なよ、これ!」
さっき貰ったスポドリ、半分になってる、まだ喉が渇いてて、声が出ない。
「仲、いいんですね、桐葉と」
「どう変化したら、そんなねじ曲がった事言えるの?俺の事馬鹿にしてるの、馬鹿にするの楽しい訳、馬鹿なの俺、俺が馬鹿なの!」
「ち、違いますよ、、、全然」
「否定になってない」
スマホの画面には、拒否ってるのが良くわかる状況になってる。
杉岡さんのメッセは、未読のまま、通話も一方的に無視されてる、今日に限ってじゃない、結構ある。
「だから、聞いたんだ、嫌いなら、嫌ならはっきり言ってくれって、、、その、、、なんだろって!」
「スマホ歩き、危ないですよ、自転車がふらふらして、前見て歩かないと」
「ふらふらは同じだろ」
「じゃあ、どこ見てるの?」
私は、、、つっかえてる物を、吐き出そうと、だから今、外に居る。
そのまま抱えてるだけで、生煮えのままなら、ずっと家のベッドで干物か漬物になってた、カビが生えたって外には向かないから。
「いつも桐葉ばっかり見てる、私はずっと見てた、スルーですか」
「な、なに、いきなり!」
「言ったらいけないの、私は?」
ガコっと、自転車をブロックに引っ掛け、杉岡さんは足をぶつけて痛がってる、そんなに痛い事!
「痛くない、でしょ」
「痛ったい、、、よ、ちょっと黙ってて、、、つう、、、」
「無視されるのって、かなり痛いから。足も無視したらどう?」
私は杉岡さんに構わず、さっさと進んでいく。振り返るの馬鹿らしくなってきた、こんなに露骨に桐葉の事しか見てない「奴」に期待しても無駄だ!
そんな気分だ、関係ないって。
「無視したくて、してきた、はっきりさせる、だから今日怒っておかしな事してきたんだろ!」
「おかしくない!」
「前だけ見ない」
「目の中、桐葉だけでしょ」
「違うって」
私の前を塞ぐ、別に用事なんか無いのに、なんでこんなにしつこいんだろ!
「逃げるの?」
「逃げてない!帰るだけ」
「前見てないじゃん」
「スマホ見て歩いてる、中身桐葉だけだし」
ぐんぐん差を付ける、追ってこない、足を速く、歩幅を大きく、地面を蹴って、自転車の音が遠ざかって、居なくなって、、、
はあーっと、下に向かって深呼吸する、そんな物なんだって、ちょっと安心した、そういう存在でしかないんだって。
「ジュース代、返せ」
自転車は私の目の前で、道を封鎖してきた。
「明日です」
「付き合ってって、言っただろ、行くよ」
「何するんです!」
無理に私の手を引っ張る、痛いのに放さない。こんな時のって、全然嬉しくない。
「居ないと困る奴、放っとけないから」
「意味ないでしょ、私?」
「あるからここまで来たんだよ!」
自転車を挟んで、睨み合いになってる。やっと目の中に、メガネのフレームの先に私が見えた、そうだ、聞こう、損しちゃうから。
「訳、何ですか?」
「着いてから、言う」
「おかしい」
「落ち着いて、話しできないだろ、こんな道路脇じゃ」
「出来ます、、、けど」
少し目があって、ちょっと逸らして、自転車を挟んで間が出来て、結構二人で沈黙してた。
杉岡さんは、食いしばるような、大きく開けたいような、どっち着かずのひきつった顔だ。
私も、伝染った、下を向きたいのか、上を見上げたいのか、左を向いてさっさと家に帰りたいのか、選択肢が頭の中でグルグル回ってきた。
「あー!」
彼がふいに声を上げた。
「駄目だよ、俺、駄目、全然どうしようもない!だから、3日も無視されても、なんか作り笑いしちゃうんだよ、笑ってなくていいんだよ、そうだろ、え!」
突然吠え出して、私は固まってる。
肩を揺さぶられてる、どうしようっての、私を?
「はっきりさせるんだよ、どうなの!分かってるよ、ずっと見てたって、こっちだって、ずっと見てきたんだ、やっと近づいたのに。また、遠くから見てるだけに戻りたいの?それで、好き、自分の事?」
次々と仕掛けてくる、どうして言いたくない事言わせようとするの!言いたくない時だって、あるのに。
「答えたら、どうします?」
「はっきり、言えるよ、今夜なら」
「、、、」
「行こう、、、」
顔が、目が横向いてない、私が横向く事させないつもりだ。
「分かった、、、」
生ぬるい風は、どこかに消えていた。
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