これ練習?居ないよ、よそ見して走る人なんて、本番で!

2/15
前へ
/15ページ
次へ
 虹は四隅に、日差しは気まぐれに。  隔たりは夕日より遠く、ドライヤーの熱風より近く、熱い。 「ねえ桐葉、間に合わないと思うよ、このままだと。のんきに陸上部の部室で服を乾かしてるって、余裕が、、、」 「日向こそ、風邪ひくよ、制服完全に濡れちゃってて。私の事なんて良いから、先に行けば良かったのに」 「だって、、、3人で」 「何?」 「何でもない!」 「何、怒ってるの?」 「馬鹿は私です。ついでに反対側にも居るし。聞こえてるんでしょ、ロッカーの反対側に居る人たち?」 「おい杉、呼ばれてるぞ」 「だ、誰も居ませんから。は、早く着替えた方が良いよ、滝本さん達も」 「杉岡さんは?」 「今、全裸だ」 「な、ち、違うって、着てますから!」 「ふーん、、、日向手伝って、下も上ももうグチャグチャで全部取らないと、手遅れになっちゃうから、、、ねえ」 「あ、ああ、そうだね、大変だ外さないと桐葉が駄目になっちゃう!」 「杉、何想像してる?」 「あーあー、困ったわー。日向どう?私の方もダメ、中まで水が染みてておかしくなっちゃう。どうしようか?」 「杉岡さん詳しいですよね、いつもいじってるから、ちょっと見てもらえる?」 「だってさ、行けよ杉」 「な、なに言ってるんだよ!」 「桐羽のって、大きいんだね近くで見ると、迫力ある!」 「日向の方が大きいでしょ、それで良く疲れないわね毎日、肩凝るでしょ?」 「うん、、、痛くてねすっごく、重たいしバランス悪くて、ちょっとの事で外れるし、参ってる」 「あー傷になってるよ、嫌だなー」 「杉岡さん、来てくれますよね?」 「む、無理!」 「先行く、俺」 「あ、ちょっと待ってよ!置いてくなよ、こんな状況で!」 「遅れんなよ、朝礼」 「他に頼める人、居ないから。見てもらわないと後悔するからこれ。その後直せる所に行くから、今じゃないと駄目なの」 「え、あ、えーと」 「嫌ならいいですよ、無理には言いませんから杉岡さんだし」 「わ、わっかりました、杉岡入ります!って、ドア内側から開けなっ!」 私と桐葉は、一気にドアを開けた。杉岡さんがドアの前で踏ん張ってるのを 分かっていて。そしてら、、、いきなり私の所に! 「まさか下着脱いでウロウロしてると思ってんの、キャプテン?スマホが水没してヤバいかなって。詳しいでしょメカ?な、なにしての日向に!」 「え、ここどこ?暗いけど、、、」 「す、杉岡さん!」 「あがっ!」 あ、ああ!と思った時には私は膝で杉岡さんの顔をブロックしていた。結果として彼の左目に大きな痣が出来て、スカートの中身は守れたけど。 「ど、どうしよ気絶してる、杉岡さん?」 「、、、アホ杉」 「だ、ダメでしょ、いまこんな事してる場合?朝礼間に合わなくなるのってのに、からかってる暇なんて無いよキャプテンを」 「言われて素直に、女子の着替えを見ようってのが悪い、杉」 「桐葉、本当に時間無いよ、早く行かないと教室に!」 「日向、手を貸してよ!」 「え、だってこのままじゃ!」 「もう、、、って、こっちがだよ。ほら早く松葉づえ使って、肩貸すから」 「真面目にやれよ、キャプテン杉」 私は冬馬くんとで、杉岡さんを無理やり起こして、何とか教室へと運んだ。 しょうもない悪戯、しょうもない時間、そんな無駄使いの記憶の一日を。 高3にもなって毎日時間の無駄使い、それで良いと思ってた。 少しでも先を望もうと無理をすると、体が重たくなって、心もどこか荷物で一杯になって、どこかへ放っぽり出したくなる。 中途半端な距離に、居心地の良さを求めていた。 教室へ急ぐ時間の、杉岡さんの肩と冬馬くんの手の感触が、どこかおかしかった。 高3にまでなって、必死で汗かいて、三輪車を漕いでるような、嬉しいはずなのにどこか、どこか、恥ずかしいような。 乾かしていない制服たち、気まぐれな入道雲は、また暑苦しい太陽と小言のうるさいセミ達を連れてきてくれた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加