25人が本棚に入れています
本棚に追加
虹は四隅に、日差しは気まぐれに。
隔たりは夕日より遠く、ドライヤーの熱風より近く、熱い。
「ねえ桐葉、間に合わないと思うよ、このままだと。のんきに陸上部の部室で服を乾かしてるって、余裕が、、、」
「日向こそ、風邪ひくよ、制服完全に濡れちゃってて。私の事なんて良いから、先に行けば良かったのに」
「だって、、、3人で」
「何?」
「何でもない!」
「何、怒ってるの?」
「馬鹿は私です。ついでに反対側にも居るし。聞こえてるんでしょ、ロッカーの反対側に居る人たち?」
「おい杉、呼ばれてるぞ」
「だ、誰も居ませんから。は、早く着替えた方が良いよ、滝本さん達も」
「杉岡さんは?」
「今、全裸だ」
「な、ち、違うって、着てますから!」
「ふーん、、、日向手伝って、下も上ももうグチャグチャで全部取らないと、手遅れになっちゃうから、、、ねえ」
「あ、ああ、そうだね、大変だ外さないと桐葉が駄目になっちゃう!」
「杉、何想像してる?」
「あーあー、困ったわー。日向どう?私の方もダメ、中まで水が染みてておかしくなっちゃう。どうしようか?」
「杉岡さん詳しいですよね、いつもいじってるから、ちょっと見てもらえる?」
「だってさ、行けよ杉」
「な、なに言ってるんだよ!」
「桐羽のって、大きいんだね近くで見ると、迫力ある!」
「日向の方が大きいでしょ、それで良く疲れないわね毎日、肩凝るでしょ?」
「うん、、、痛くてねすっごく、重たいしバランス悪くて、ちょっとの事で外れるし、参ってる」
「あー傷になってるよ、嫌だなー」
「杉岡さん、来てくれますよね?」
「む、無理!」
「先行く、俺」
「あ、ちょっと待ってよ!置いてくなよ、こんな状況で!」
「遅れんなよ、朝礼」
「他に頼める人、居ないから。見てもらわないと後悔するからこれ。その後直せる所に行くから、今じゃないと駄目なの」
「え、あ、えーと」
「嫌ならいいですよ、無理には言いませんから杉岡さんだし」
「わ、わっかりました、杉岡入ります!って、ドア内側から開けなっ!」
私と桐葉は、一気にドアを開けた。杉岡さんがドアの前で踏ん張ってるのを
分かっていて。そしてら、、、いきなり私の所に!
「まさか下着脱いでウロウロしてると思ってんの、キャプテン?スマホが水没してヤバいかなって。詳しいでしょメカ?な、なにしての日向に!」
「え、ここどこ?暗いけど、、、」
「す、杉岡さん!」
「あがっ!」
あ、ああ!と思った時には私は膝で杉岡さんの顔をブロックしていた。結果として彼の左目に大きな痣が出来て、スカートの中身は守れたけど。
「ど、どうしよ気絶してる、杉岡さん?」
「、、、アホ杉」
「だ、ダメでしょ、いまこんな事してる場合?朝礼間に合わなくなるのってのに、からかってる暇なんて無いよキャプテンを」
「言われて素直に、女子の着替えを見ようってのが悪い、杉」
「桐葉、本当に時間無いよ、早く行かないと教室に!」
「日向、手を貸してよ!」
「え、だってこのままじゃ!」
「もう、、、って、こっちがだよ。ほら早く松葉づえ使って、肩貸すから」
「真面目にやれよ、キャプテン杉」
私は冬馬くんとで、杉岡さんを無理やり起こして、何とか教室へと運んだ。
しょうもない悪戯、しょうもない時間、そんな無駄使いの記憶の一日を。
高3にもなって毎日時間の無駄使い、それで良いと思ってた。
少しでも先を望もうと無理をすると、体が重たくなって、心もどこか荷物で一杯になって、どこかへ放っぽり出したくなる。
中途半端な距離に、居心地の良さを求めていた。
教室へ急ぐ時間の、杉岡さんの肩と冬馬くんの手の感触が、どこかおかしかった。
高3にまでなって、必死で汗かいて、三輪車を漕いでるような、嬉しいはずなのにどこか、どこか、恥ずかしいような。
乾かしていない制服たち、気まぐれな入道雲は、また暑苦しい太陽と小言のうるさいセミ達を連れてきてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!