これ練習?居ないよ、よそ見して走る人なんて、本番で!

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廊下を、校庭を、坂道を、引っ切りなしに走り響かせる足音たち。 今日は授業も午前中だけ、後の時間はさっきの進路指導の続きか、部活のミーティングぐらいで、と安心してた。 今、はしらされてる、昨日の、一昨日の、その前の分も余計に。 止まったら、何かが変わって、止めて欲しい、そんな気がして。 どこへ行きたいんだろう、私、どこへ行くのだろう、私。 「さっきの、なんだったんだろ、3人で、訳わかんない、全然」 夢中で走ってた、景色も意識も流れて、気が付くとはあはあと息を吐きながら校庭の端に居た、日差しは夏に戻っていた照り付ける太陽が何かをせかしてる。 制服のスカートが、汗で足に纏わりつく、じれったい何がしたいんだろ、何考えてるんだろ、ワイシャツの襟、汗染み、全部もどかしい! 「、、、どうしたんだろ、私、、、はあ、、、」 目に汗が入ってきて、嫌になる程染みる。 部活でだってこんな暑い日に走らないのに、何か走っていないと落ち着かない! やっと目がはっきり見えた頃、フェンスの反対側におかしな世界が広がっていた。風の流れが淀んで、凪の続く海の様に、生暖かく暑っ苦しく、背筋とおでこに絡みつくみたいな熱気と湿気で、私の呼吸を妨げていた。 「何、、、あれ?」 私は慌てて校門の外に駆け出してた、気が付いたら、とにかく、今は! 「、、、長瀬?」 「冬馬くん、大丈夫!」 見慣れない制服の男たち数人が、冬馬くんを取り囲んでいた、どう見たって遊びに誘っているようには私には見えない。どちらかと言うと、これから問題になりそうな、睨み合いからのもめ事直前の、沈黙だ。 「誰だ、この子は?マネージャーか、湘藤高の?」 「、、、知らねえよ」 「ねえ、冬馬君、この人達は?」 私が前に出ようとするのを、手で抑え込み、冬馬君は関係ないよばかりにクルリと後ろに向かされ、あいつらに向かう。 「退屈そうだな冬馬、こっちに行ってから」 「ああ、充実してる」 「それで、良いのか、お前は」 「関係ないだろ、佐々木、お前には」 「ある」 「ねえ、何の事、教えてよ」 「合コンする面子が足りないから、俺に来いってさ、長瀬は来なくていい、需要ない。ボーリングサークルだよ」 「どう聞いても、そう聞こえないし、そういう風に見えない」 「そうなんだ!」 「大きい声、出さない、で、、、」 「、、、知るかよ」 「戻らないのか、冬馬、戻れないのか、まだ」 鋭い目の冬馬君と、短い髪と長身の佐々木さんとの間に、私が入り込めない空気の壁が間合いを取っている。 「何が用だ?」 「別に、退屈してそうだから、出前のラーメン持ってきてやっただけだよ」 後ろの2,3人かがクスクス笑っている。 「ねえ、、、」 「あっち行ってろって、お前日本語分からないのかよ、長瀬!」 「い、痛い、、、放して」 私の両肩をきつく握る冬馬君の、目はいつになく冷たい炎が宿っている。 怒っているというより、何か苛立っている、必死で自分の気持ちが破裂するのを抑え込んでいる、そんな冷たい沸騰のような。 「可愛い彼女と仲良くな、冬馬」 「なんだと!」 「わ、私、ち、違います、、、」 「うちの監督が言ってた、勿体ない潰れやがって勝手に。あいつを中心に鍛えれば、高校駅伝の予選突破も現実になるって。それなのに、なんで真面目に走りもしないで、女といちゃついてるんだ」 「佐々木こそ、練習してろよ早く帰って」 痛む肩を抑えながら、私は冬馬君と佐々木さんの間に割り込んだ、物凄い威圧感を感じながら。 「と、とにかく、校門なんて目立つ所でもめ事は止めてください、め、迷惑なんです、佐々木、、、さん、えーと」 「茅浜高校の佐々木だ、マネージャーだよね、君、名前は?」 「長瀬日向、、、です、選手ですから一応」 「あ、ああ、失礼した、あんまり小さくて丸っこいからてっきり!」 分かってる、こんな反応はいつもの事だ。私が選手だって言ったら、後ろ人、軽く噴き出してた、やっぱり。 「茅浜高校、、、?」 「死んだなお前、才能は受け継がれないんだ、悲しいななんか」 「、、、言いたいこと終わっただろ、佐々木」 「損した、人生で2番目位に」 「、、、?」 こんな時に私のポケットの中で、スマホが振動した、あんまり心臓に良くない。メッセの相手は桐葉だ、どうしようって時に今度は、、、杉岡さんが! 「何してるんだよ、冬馬!、、、あれ、彼?」 「杉、、、ちっ!こんな時に」 「きゃ、キャプテン!」 「何してるの長瀬さん、先生怒ってるよ、相談ほっぽり出して帰ったのかって、早く行かないと!」 「い、今そういう状況じゃ」 杉岡さんが呼びに来たけど、冬馬君放っておけないし、進路の相談しなくちゃって、冷静になれないし、佐々木さんて人静かに帰ってくれなさそうだし、どうしよう? 私が何とか割り込んで抑えてるけど、居なくなったらケンカでもしそうだし、、、 「日向!」 「き、桐葉!」 収集が付かなくなってきた、照り付ける太陽の暑さで頭はパニックだ、目の前が真っ白になってきた、もう、もう、もうどうにでもなれ! 「こっち!冬馬君、来て!」 「なんだよ、おい、長瀬!」 「ちっ、、、しょうがねえ奴、損したなこんな所まで来て」 私は冬馬君の手を取って、身柄を強奪した!その場から逃げて、とにかく走った!駆けた!途中で、転んだ、その後ちょっと覚えてなかった。 制服のシャツに纏わりつく熱気たちが、どこまでも私を放さなかった。 呆れるほど、朝の夕立をのけ者にする程、かっかと照らす日差しと、目の前に立ちふさがる夏の熱風に、左右に揺らいでいた私の進路は。
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