これ練習?居ないよ、よそ見して走る人なんて、本番で!

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意識が、戻った、ぼんやりした時間は、過ぎ去っていた。 フェンスのあっちとこっちに、ふらふらしてた私の気持ち。 走り出したら、走ってた、気持ちが、冬馬の手を引っ張っていたら。 途中何度も振り切られそうになったこの人の手を、無理やり繋ぎとめて連結させて、海が手の届く所まで行こうと思って、江ノ電に滑り込んだ。 電車の中、ずっと背中合わせで乗ってた、視線が合わないも合うことも、ずっとなかったし、全然要らないとおもってた、から、今まで。 「暑かったかな、、、頭」 「、、、アホ」 容赦なく照り付ける太陽に、負けてる私、日差しのキツさに頭がゆらゆらしてる。こっちのピンチを知ってか、橋の日陰の方に誘導してくれる、なんか情けない。 夏の昼下がり、14時22分の江の島、無理に電車から降りて、浜辺の風で頭をこの人の頭を冷やしてやろうと思ってのに、反対に日陰で休まされてる。 「あの、、、」 ずっと背中ばっかり向てる、何から聞けば良いんだろう? 戸惑いとためらいで、足元の砂をグシャシャリしながら、その場を落ち着かない犬みたいにグルグル回ってる。 全く落ち着かない私は、振り向きざまこの人に手を取られて、その場にへたり込んだ、顔にまで砂が掛かった、汗ばんだ額に砂地で影が入った。 「お前、何なんだ?」 「ぷっふ!、、、ぺっぺ」 私は質問に答える前に、口に入った砂を吐いていた。そうしてモゴモゴしてる内に、手で顔の砂を払われ、もう一回引っ張り上げられた。 目前に迫る「この人」の顔、笑ってない目が、すっと近づいてくる。 「何にも知りたくないのか、俺の事!」 「い、いえ、その、でも、、、」 「こんな物なんだ、今の俺って、、、」 こっちを怖い顔で睨んできた、後ろに下がりたいけど橋の根元で後がない、こっちが動けなくて困ってる事なんて関係ないって顔で、手に一掴みの砂を取って、サラサラと砂浜にゆっくりと解き放っていった、この人は。 「知らないのか、佐々木を、茅浜の、お前は?」 「さっきの背が高い、人?」 「どうなってんの、お前??」 真顔でこっちを見てきた、初めてだ、こんなに視線が近づいたのは。どうしていいか分からず、上からの圧力で、私は体が視線ごと縮んでいた。 「お前、何様のつもり」 「でって、言われても、、、それにお前って、ちょっと、、、」 「アホは、俺か、分かったよ、聞き流せよ」 クルリと背を向け、彼は砂浜に腰を下ろした、日陰でも十分砂は熱い。じりっとした、熱気が体を貫通してくる、おかしな汗がさっきから止まらない。 「ただの走り屋仲間だ、佐々木は、それだけ、関係ない、もう俺にもお前にも」 「それだけ、、、」 「ねえよ、他には」 「ケンカ相手だって、街で絡まれて」 「そんな風かよ、見た目?」 「ち、違うって!」 「座れよ、疲れるんだよ、見下ろされるの」 上目使いキツイ視線を想像してた、近くに居ても目を合わせた事なかったから、この1年。涼しげな、どこか張り詰めたような、熱の冷めたガラス細工のような目が、私の視線を奪った。波も、蝉の鳴き声も、雑踏の話し声も、音が切り離された世界に二人っきりで、迷い込んだような、静けさだ。
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