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言葉に詰まってた、息はもっと詰まってた。
空気の薄くなった水槽の金魚みたいに、口をパクパクさせながら、彼「冬馬柳斗」を見ていた、橋の日陰ですら焼き付けるような砂浜で。
彼は、藻掻いてた、何かに底なし沼に、蟻地獄の砂に足を取られているかのように、必死でさっきからダッシュを繰り返してる、やみくもに。
息が上がって、シャツの背中が汗でくっついて、まとわりついても気にせず、焼き付く砂浜の上を走る、何かに取りつかれたように。
「日向、ここか」
「桐葉、キャプテン?」
「長瀬さん、何やってんのミーティングも全部すっぽかして!」
暑さで揺らいでた視線を、上に向ける。キャプテンと桐葉が、私の顔を覗き込んできた。
「、、、おはよう?」
「どうする?」
「あ、あれ、、、冬馬」
「柳斗、、、」
「長瀬さん、柳斗、どうしちゃったの?さっきからずっとダッシュして、茅浜高校のとなにやらかしたの!」
「日向、ダイジョブ?」
ふらつく頭、ぼんやりする意識、二人の言葉は青空の向こうより遠くに聞こえる。無理やり杉岡さんに立たされ、やっと口が回るようになった、喉カラカラで声が出ない。
「ねえ、冬馬君て何?」
「は?!」
「良く分からなくて、何考えてるんだかさっぱり、、、去年転校してきたのって、やっぱりケンカでもして居づらくなったからなの、かな、、、」
二人の顔色が赤や青に、緑に、色々変化してる、私何か変な事いったのかな?大体、彼の事調べようって思わなかったから。多分言えない事もあるから、聞かないのが良いって、ずっと思いこんでたし、あっちも距離取って全然近づいてこなかったし。それに、、、
「日向、陸上部、だよね?」
「え、、、金鷲旗狙える学校だと?柔道部だったんでしょ」
「きんしゅうき?長瀬さん、頭打ったの?病院行く?」
呆れはてた二人の頭上を、ギラギラの太陽が浮かんでいる、まるで私を馬鹿にするように、げらげら笑ってるようにカンカン照りになって。
「バカにし過ぎだよ。柳斗の事、それじゃ起こるよあいつ」
「いくらなんでも、、、興味無いとかの問題じゃないよそれは。じゃあ、さっき来てた茅浜高校の佐々木の事は、まさか?」
「柔道部の主将、じゃないの?」
「ひっどっ!、引くわさすがに、柳斗でなくてもちょっと、くるわ」
「キャプテン、そこまで笑わなくたって、、、」
「、、、帰る、私、頭冷やしてきて日向」
「あ、桐葉、待ってよ!」
私が止める間もあっても、その手を振り切って、帰る足を止めながら桐葉は冬馬君の走る姿を見ていた、なにか芸術品を見るような、眩しい目つきで。
杉岡さんが、笑うのを止めてやっと、いかにもな顔で説明を始めた。
「もと茅浜だよ、柳斗って。あそこ神奈川で強豪校だよ陸上長距離でさ、あいつ雑誌で見た事あったから、何で2年の途中でって聞いたよ僕も」
「それで、、、」
杉岡さんは、視線を遠くの海に移し、なんとなく寂しい顔になってた。
「全然、、、興味無いって、口きいてくれなくなった」
「って、、、?」
どう反応して良いのか、分からなくて、私はただ打ち寄せる波ばかり見てる。何か大事な事を言いたいんだろうけど、どこか詰まってる。
「部活に入れてくれ、ただそれだけ。それでさ、長距離の記録取るでしょ、長瀬さんも、県の代表狙えたはずなのに、俺とどっこいなんだよ、おかしくない?」
「そ、そんな事無いですよ、キャプテン速いですよ!」
「あいつのは、強い奴のは、そういう感じじゃないんだよ!」
私は慌ててフォローしたはずなのに、杉岡さん怒ってる。
私は立ち上がって、キャプテンの前に回り込もうとするのに、クルリと直ぐに向きを変えられる、怒ると目を合わさない人だから。何度も回っ足りして、目が回る、ふと視線の先に砂浜で固まって冬馬君の姿を、二人で追っていた。
「僕なんかじゃ、練習どころかウォーミングアップくらいしかならないよ。何度も仕掛けた、本気だせよって、馬鹿にするなって、どうにもしなかったよ、あいつ、賭けたけどさ昼飯とか」
「駆けた事、あったんですか」
「うん、、、負けてくれた、それで馬鹿らしくなって、ああそうかって、うちだと陸上愛好会なのかなって。、、、どこ見てんだろうなって、思って」
私の、他の、視線の先は、互いにもつれて絡まって、迷路になってた。
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