思い出に変わるまで

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今日は路上検定。 俺とナミは無事合格し、これで教習所は卒業だ。 「本試験、いつ受けに行く?」 「俺は明日にでも。ナミは?」 「私は、今度の土日に実家に帰りながら行こうかな。」 「そうか。じゃあ、これでもう会えなくなるんだな。」 「何か、寂しいね。」 ナミから「寂しい」と言う言葉が出るとは思わず、俺の胸に響くものがあった。「俺も本当に寂しい」それを言ったらウッカリ泣いてしまいそうだ。はそうじゃないだろ? 「何言ってんだよ。今度はカットモデルやってもらうから!」と笑う。 「蒼空はメイクだけじゃ無くてカットも上手そう!」 「おう、カリスマ美容師目指してるから。連絡先、交換しよう!」 「うん。」 そう言って連絡先を交換したところで送迎のバスが来る。 「なんか、雨降りそうだね。」 「そうだな~、向こうの方雲が真っ黒。」 「夕立の前って、何かニオイしない?」 「あ~、確かにするかも。」 そんな他愛も無い話をしながらバスに乗り込むと、遠くで雷の音が聞こえる。 こうやって2人で笑い合うのもこれが最後だろうな。 その時思った。このまま別れたら、俺はまた絶対に後悔する。 「ナミ、覚えてる?教習所初日の朝、バスで会った時のこと。」 「え?覚えてるよ。」 「俺が高校の時『どんなタイプの子が好きだった』っていうのも?」 「・・・ん~?あ!佐和じゃ無いって事は聞いた。でも、どんな子が好きなの?」 やっぱり、前進はしている。 最初はどうでも良さそうだった俺の事、ちゃんと興味を持ってくれるようになった。 「俺の好きなタイプは『可も無く不可も無く、目立たない、浮かない、溶け込む系』だよ。」 「・・・それって。」 「俺ね、ナミの事ずっと好きだったんだ。」 「え・・・。ウソでしょ?」 「ホントだよ。だからこそ、ずっと後悔してた。俺にとってそれは褒め言葉だったんだけど、きっとナミを傷つけてたよね。本当にごめん。」 「ううん、そんなの私だって悪かったんだよ。『男子は・・・』ってひとくくりにして、態度悪かったし。」 いよいよバスの窓に雨粒が当たる。 俺は鞄から折りたたみ傘を取り出し、ナミに渡しながら言った。 「これ、使ってよ。」 もう、これでお別れだ。そう思ったら感極まり、声が震える。 バスが揺れるから分からないけど、手も震えている。 「え、でも、蒼空が濡れちゃうよ。」 「合宿所は屋根の下にバスが止まるから大丈夫なんだ。」 「・・・本当に?」 「うん。カットモデルお願いする時に返してくれればいいから。」 「・・・ごめんね。」 「謝らないでよ。俺達、けっこー仲のいいになったつもりだよ?嫌かな?」 「ううん、そう言ってくれるの嬉しい。」 そのタイミングでバスが止まる。雨がいよいよ本降りになってきた。 「じゃあ、またね。本試験お互い頑張ろう。」 俺が手を振る。 ナミは少し申し訳なさそうに、でも笑って俺に手を振ってくれた。 雨粒で窓の外が見えない。 いつもだったらバスから手を振るナミが見えるけど、今日はこれでよかった。 こんなぐしゃぐしゃの泣き顔、かっこ悪くてナミに見せられない。 俺とまるでリンクしたかのような土砂降りの夕立を眺めながら俺はどこか晴れ晴れしい気持ちだった。 ナミへの恋が思い出に変わるまでは辛いだろう。 でも、これで良かった。ベストを尽くせたから。 合宿所に帰り、荷物をまとめ終わると先ほどまで降っていた雨が止み、窓の外が明るくなる。荷物を手に、顔を上げると大きな虹が架かっていた。
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