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高校入学してすぐ。俺はナミの斜め後ろの席。
大人しい、目立たない、そして控えめ。
そんな彼女が友人と笑い合って、ツヤツヤしたそのボブヘアをなびかせた瞬間。
俺の心は奪われた。
きっとその時からナミの事が好きだった。
何度も話しかけようとするものの、見えないバリアがあって挨拶すら出来ずにいる。きっと男子が苦手なのだろう。女の子とは普通に話しているから。
そんなタイミングで、他のクラスの友人が頻繁にやってきては「なぁ、あの佐和って子可愛いから絡んで」と言った。
佐和はいつもナミと一緒にいる友人で、話やすかったので絡むのに丁度いい。
(あわよくばナミにも話が振れないかな。)
そんな風に思っていつも佐和に話しかけていた。
・・・が俺が近づくだけで急にガードが堅くなる。全力で目を逸らし、存在を消す。
もはやこれは何かの能力だろう。
これはもう無理矢理話を振るしかない。
そして、その時はやってきた。
ナミと佐和が楽しそうに話をしている。
話しかけてみると、週末に服を買いに行くらしい。
「どんな服着るの?」と佐和に聞いた。
「別にフツー。基本的にカジュアル。」
これって、チャンス?
「じゃあ、ナミは?」
「へ?」
まさか話を振られると思っていなかったのだろう。少し困っているように見えた。
「あ、待って。当てるわ。」
「・・・え?」
「えっとね、ネイビーボーダーのロンTと、スキニーパンツに、グレーのパーカー羽織るんでしょ?」
俺がそう言うとナミは「何故分かった」という顔をしている。
「あ、まさか正解?ナミってそういう感じだよな~。可も無く不可も無く?目立たない、浮かない、溶け込む系?」
俺としては褒めたつもりだった。
『無難な服でもナミは可愛いからいい』って思っていたから。
けれど、佐和に怒られてしまった。
「もー!ナミにまでウザ絡みしないで!」
「ごめん、ウザかった?まじ、ごめんね!」
「いいですけど・・・。」
「蒼空ね、無神経なの良くないよ!」
まじか。言葉選び失敗したー!
「あ~ね、よく言われるわ。」
とりあえず笑ってごまかしておこう。
「ほら!早く退散して。休み時間終わっちゃうじゃん。」
「えー、じゃあ邪魔者は消えま~す。」
(後で、ちゃんと謝ろう。)
そう思っていたけど、そのタイミングが来る事は無かった。
ナミにずっと避けられていたから。
俺はナミをずっと目で追い続けた。
誰もが俺の視線の先にナミがいる事を知っているのに、ナミだけは俺の視線に気がつかない。
ずっともどかしい気持ちを抱えたまま卒業、進学。
もっと話しかけていれば・・・。せめて挨拶だけでも出来たら・・・。
そんなたらればばかりを考えて後悔しているからか、未だに俺の中にナミが住み続けている。
きっとこれは最後のチャンスだ。
俺は合宿免許の荷物をボストンバッグに詰め込んだ。
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