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異世界転生した私は世にも珍しい安眠の聖女と呼ばれている。
この世に様々な異能あれど、安眠を齎す異能者がたまたまいなかったのだ。
「とは言っても、私別に聖女でもなんでもないんだけどね……」
この世界の主たる趣向品がなぜかブラックコーヒー。そりゃ眠れない。
私は今夜も安眠の聖女として、仕えるお城の王様のコーヒーをノンカフェインコーヒーにして、奥様の枕にラベンダーの精油を垂らし、お姫様の枕元には導眠周波数で歌う妖精を置いた。
今夜もみんな安眠だわ。
そして私は最後に意を決して、魔導師様の部屋へと向かう。
異能でもなんでもない私はこの世界で、ノンカフェインコーヒーもラベンダーの精油も導眠周波数妖精も用意できない。全部魔導師様が用意してくださっているのだ。
「今夜もお疲れ、聖女様」
月明かりと魔力の燈明に照らされた魔導師様は、サラサラの紫の髪をしどけなくかきあげて私を誘う。
私をベッドで抱き寄せると、彼は私の髪に口づけながら白々しい事を言う。
「聖女様、私にはどんな安眠をもたらしてくれるのかい?」
「そうね。まずはそのらんらんに輝く瞳と昂った体を、落ち着かせるところから始まるんじゃないかしら?」
私は世にも珍しい安眠の聖女。
けれど魔導師様の前ではいつも、私が結局安眠させられてしまう。
「おやすみ。安眠の聖女」
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