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7月20日 午後4時30分―ー
《ストッ》
玄関の脇に荷物の入ったキャリーバッグが置かれる
そして、そのすぐ隣に立ち止まる女性
ローヒールのバンプスを丁寧に揃え、ゆっくりと足を通していく
『荷物は、これだけなのか?』
後ろからの男性の声
『えぇ・・・意外にあっさり』
女性は、ベージュのワンピースをひるがえして振り向くと、白い歯を見せる
靴を履き終えると男性のほうへきちんと向き直る
『いよいよ、この日が来たか・・・』
感慨深そうに腕を組む
『えぇ・・・』
コクりとうなづき、微笑む
『なんだったら、ずっと居てくれてもいいんだけどな~』
意地悪げにつぶやくと
『いやいや、ちょっと・・・それは・・・』
パッと困惑する表情に変わる
『ハハハ、言ってみただけだ、気にするな』
『・・・・・・・』
『・・・?』
女性は、佇んだまま、肩掛けカバンの紐をグッと握り締め、男性の顔を見つめる
『・・・・・・エリ?』
『・・・・・・・』
次第に、その瞳は、赤く潤んでいく
『・・・おじさん・・・』
『・・・・・・』
『お世話になりましたっ!』
深々とお辞儀をする女性ーーエリ
『あぁ・・・元気でな』
もらい泣きしそうになるのをこらえながら、優しく返す男性ーー葉山
『また、いつでも帰ってこい』
『・・・・・・・・』
『ここは、お前のウチだ』
『!』
エリの瞳から溢れそうになっていた滴は、こぼれ落ち、頬を伝っていく
『・・・はい・・・』
下を向いて、滴をそっと拭うと、顔を上げる
『・・・・・・・』
『・・・・・・・』
なおも何か言いたそうなエリに、葉山は、キャリーバッグを手渡す
『さっ、時間も無いし、早く行った、行った』
『・・・・・・えぇ』
《ガチャ》
玄関ドアを開けると、エンジンをかけたままの軽自動車が横付けされている
車内からは、手を振って笑う渚の姿
『・・・それじゃあ・・行ってきます・・・』
『あぁ・・・行ってこい』
《バタン》
『着いたら連絡くれよ』
『えぇ』
車のウインドウ越しに笑顔を贈りあう
『おじさん・・・』
『ん?』
『また・・・・』
『・・・・?』
『・・・報告するかも・・・』
『え?』
『いや、なんでもない・・・』
『??』
いつもどおりの微笑みのまま、シートベルトをいくぶん慎重にしめているエリの横顔
『・・・・・?』
《ブォーン・・・ブォーン・・・》
『本当に長い間・・・お世話になりました・・・』
何度もお辞儀しながら、手を振るエリ
振り返す葉山
『またいつか帰ってきます・・・』
『あぁ』
手を振り合う二人
『・・・・・・』
『・・・・・・』
お互いの姿が見えなくなるまで
『・・・・・・・』
夏の陽差しを浴びながら
その轍に希望を乗せて・・・
つづく
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