第1話「夢を乗せて走る車道」

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《ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・》 4人掛けのボックスシートに、ひとり、ゆったりと座る 『・・・・・・・』 進行方向に向かい、車窓からの景色を見つめている 《ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・》 様々な高層ビルが連立する都市 目で追うことすら労力を要するモノトーン 『・・・・・・・』 そこを抜け出した先にあるのは、緑を多く含んだ、 ゆとりのある街並み どこか固意地を張らない気ままな緩さがある 『・・・・・・・』 そんな街の呼吸に同調することを許された時間 『・・・・・・』 ただただ身を任せる 《ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・》 『・・・・・・』 電車に“運ばれる”ことが、こんなにも心地よいものだとは、少なくとも、この数年、考えた事すらなかった 『・・・・・・』 何がこの街をそうさせるのか? 『・・・・・・』 季節の色を季節の色にできる街 秋を秋らしく、冬を冬らしく、春を春らしくーーー そして 夏を、いちばん夏らしくする場所 『・・・・・・・・』 この街には、夏が似合う 『・・・・・・・・』 日本中の夏の風情が集っている ギラギラの太陽もーー 澄みきった青い空もーー 広くて大きな海もーー 『あっ、サザンじゃん』 そう、サザンオールスターズも・・・ “・・・って、ん?” 声がする方へ顔を向けると 隣の別のボックスシートに向かい合わせで座るカップル カラフルなビーチスタイルのシャツとサンダルで、仲良くお揃いのコーディネート 彼女のほうが、手に持つ雑誌には、“5人組の男女”が並んで表紙の中央を飾っている 『サザン、復活したんだよねーうれしいよなぁ』 『なに?ユウくんもサザン好きなの?初耳』 『まぁ、やっぱりサザンは、外せないでしょ、夏だし』 『へぇ~』 『いつ聴くの?って、言ったら・・・今でしょ!』 『またそれ~飽きた』 笑い合うふたり 『・・・・・・・・』 そんなやりとりを聞きながら、車窓に目を戻して、少しにやける “サザンかぁ・・・・” 《『まもなく、茅ヶ崎駅、茅ヶ崎駅~』》 アナウンスが車内に響き渡る 『・・・・・・』 荷物を手に取る ビジネスバッグと、それに大切にしまいこんだ“紙包み”ーー “元気にしてるかな” 立ち上がり、降り口のほうへ向かって歩を進める “・・・栞・・・” 《ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・》 “・・・やっとだよ・・・” 降り口の前で止まる “やっと約束を果たせるよ” 『・・・・・・』
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