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ディスプレイに表示された名字を見ても全く思い出せないまま
恐る恐る携帯を耳に当てた。
「もしもし…」
「春?今どこにいるのよ、もう授業始まるよ?」
電話をかけてきたのはどうやら女の人のようだった。
とても親しく話す感じからこの人とは仲の良い関係なのかもしれないと
感じたものの
相手の苗字しか登録されておらず
現在パニック状態に陥ってるので
苗字も忘れてしまい名前を呼んで返事すら出来ない。
「春?」
何も言わない私に不信感を覚えたのか、女性の声は先ほどよりも
声のトーンが低くなっているのがわかった。
(このまま何も話さずにいて不審がられるよりも正直に打ち明けた方が
賢明かもしれない…)
覚悟を決めて電話越しの女の人に現在自分自身に起こった状況を少しずつ説明を始めた。
「すみません…、あなたがどなたなのかは分からないのですが
私は今おそらく記憶を失っているみたいなんです…」
「はい?…みたいって何?
記憶喪失??ん?何かの冗談よね?」
意味不明なことを言ってる自覚もあるしそれを第三者が聞いて混乱するのもわかる。
我ながら突拍子もないこと言ってると
失笑してしまう。
それでもこの状況からなんとか抜け出したくて
自分の頭の中がぐちゃぐちゃの状態でも今の状況を話し続けた。
たとえ相手がどれだけ混乱しても構わなかった。
何がなんでも信じて欲しかったからだ。
「それが冗談じゃなくて…。本当にわからないんです。
気がついたら2021年になっていて…ここがどこかもわからないし
私の中では昨日が高校の中間テストが終わった記憶しかなくて…
携帯も自分のものなのかもわからない状態で…。何言っているんだと
思うかもしれないのですが本当にここがどこかも分からなくて
無理も承知なのですが助けて欲しいです」
思いの丈を捲し立ててる間
相手の女の人は何も言わずに私の話を聞いてくれていた。
「私も状況はいまいち把握しきれていないんだけどとりあえず
今自分がいる場所がわからないんだよね…?」
「そうです」
「ちょっと待ってね…、今日この時間って研究発表だっけそれとも実験だったっけ…抜けられないかな…」
女の人は誰かと会話を始めだした。
相手の声は聞こえなかったけど、私のために何かを犠牲にしようとしているのは察することができ居た堪れない気持ちになった。
しかし、この状況を脱するには彼女の協力は不可結で
この後自分にできることがあるのならばなんでもお詫びをしようと思った。
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