45人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめん待たせたね。私今からそっちに迎えに行くからとりあえず携帯で周りの風景写真で撮ってくれるかな?もしかしたら分かるかもしれないし!」
「わかりました、ありがとうございます」
そう言うと一旦通話を終了させて
何か目印になるものがないかウロウロと辺りを見渡した。
(どうして私はここにいたのだろう)
静かな住宅地なのか特に目立った特徴が見当たらなくて若干途方に暮れてしまう。
そんな時にどこからか鐘の音が聴こえてきた。
(あれ?この音は…)
音の鳴る方へ私は歩き出した。
淡いピンクの屋根の家の角を曲がると
そこにはひっそりとした小さな教会があった。
ここの写真を撮ろうと思いカメラを教会に向け写真を撮り、先程電話した『木下さん』に送信した。
そして、再び教会を見上げた。
(知らないはずなのに…どうして懐かしさを感じるんだろう。この2年間で来たことがあるのかな。…もしそうだったら、一体どんな用事で訪れたのだろうか…)
そんなことを考えていると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ごめん、遅くなって」
木下さんが走ってこちらにやってきた。
想像していたよりもずいぶん大人びている女性に見えて
思わず綺麗な女性だなと思った。
「いえ、こちらこそ突然すみません。」
木下さんは、私をしばらく見つめた後にポンと両手を叩いて何かを
閃いた様子でこちらを見つめていた。
「まずは、どこまで覚えているか整理した方がいいよね!
私の名前も覚えていない感じもするし改めて自己紹介をするね
木下 美希です。
でも、こんな道端で話すのも変だしどこか落ち着いた場所で話そう」
そう言って木下さんが私の腕を掴んで歩き出そうとした時に
ふとあることが脳内を過ぎって彼女の裾を掴んで引き留めた。
「あの、でも授業はいいのですか?戻った方がいいのじゃないかと…」
先程の話では、彼女も私も『授業』というものには出席しないといけない気がする。
「うーん。確かに出席した方がいいと思うんだけど、今の状態で出席してもきっと授業内容はわからないのじゃないかと思うんだよね。勿論このまま大学に戻るのもいいけど、どうしたい?春のしたいように私はするからさ」
「確かに今の状態で出席しても授業にはついていけないとは思うんですが
私のせいで木下さんが欠席扱いになるのは、もっと嫌なので大学に戻りませんか?」
そういうと、彼女の顔は満面な笑みで私を抱きしめた。
「春のそう言う所、ほんと昔から好きだーー。記憶喪失になっても
根本的なところは変わっていないっていうことだよね。
春の言う通りに大学に戻って、授業を受けよう。その後私の知っていることはなんでも話すからさ」
木下さんは何度か頷いた後に私の手を握って大学の方に歩き出した。
その姿がなんだか微笑ましく思って私は微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!