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エピローグ
司のお墓参りから一年の月日が流れた。
その間、私は穏やかな日常を過ごしながらも
どこか寂しい気持ちを抱いていた。
あれから翼はもっと自由な世界を見たいとを各国を旅をしながら色々な写真を送ってくれている。
家族の中は相変わらず壊滅的だと言っていたが
それでも前よりは元気にして暮らしていると教えてくれる。
そして、裏づけるにたくさんの写真と共によく彼が笑顔の写真も同封されていたからだ。
今は前より随分と息が楽に据えていると優しく微笑んだいた。
そんな私はというと、意外にもこの一年で数回と言えど
母との文通を交わしていた。最初は叔父柚月神父の所に
近況報告をと、教会を訪れた時だった。差し出された一枚の手紙。
最初は驚きを隠せなかった。だってまさか母から手紙を貰うなんて夢にも思わなかったからだ。
手紙の始まりは当たり障りのない文章だったけれど
母の方から一年前に嫌悪感を隠さずに春に対して怒った香奈という女性の事も教えてくれた。
彼女もまた私と同様に家族から疎外されて生きてきたらしい。そして、母は香奈の事を置き去りにしてきた
春の姿を重ねて色々と話を聞いてあげ交流をし、
自分が娘を置いて出ていったことも勿論打ち明けたと書いてあった。そして、自分がした事の残酷さを初めて
理解できたとも記されていた。
今更、どう謝罪しても上部だけかもしれないが
それでも私が貴方にした事を償いをどの様な方でもさせて欲しいと書いてあった文章を読んだ時は
初めて母とも分かり合える日が遠くない未来来るのかもしれないと思った。
少しずつ周りの環境が変化し初めていく中でも、時々
翼ともうこの世にいない司の関係に心がざわつくことも時々起こっていた。
翼の告白から彼の死の真相を知ったとしても
心からすっきりとした気持ちにはなれなかったからだ。
翼の過去にあった出来事を司の口から一切打ち明けられたことが無かったからもしれない。
知って欲しくはない過去だったからかもしれないが
それでも、知らなかったと言う事はそこまで踏み込んだ関係には慣れていなかったと言う証拠だったという事を痛感していた。
でも、もし司が敢えて言わなかったとしたらと考えると
とてつもなく彼を愛しく思う。
彼の中できっと、私が考えていた悩みは彼にも答えが分からない事だっただろう。それでも、私を明るい方へと救い出そうと彼の胸中の中に乖離が生まれても尚明るい言葉を欠け続けてくれた。そう考えると
愛しくてたまらない。
例え、彼にも言えない秘密があったにしても
彼から貰った温かい言葉のおかげで今の私がいるのも事実だ。
司に出会わなければ私はきっと
これほど人と関わろうともしなかっただろうし、自分自身が一番可哀想な人間なのだと被害妄想をして生きていたのかもしれない。
そんな私が変われたのは彼のおかげだと思う。
もし彼が目の前に現れたならば、どの言葉をかけるだろう
そんな気持ちを抱きながら
彼の亡くなった場所の交差点に
花束を添えにやってきた。
そこに1人の少女が私と同じように
花を添えてお祈りをしていた。
少女の隣にしゃがみ込んで
花束を並べる。
「お姉さんは、お兄さんのことを知っているの?」
女の子の方から話しかけてきて、私を見つめていた。
「うん。大切な人だったんだ。貴方は?」
その言葉を伝えた途端彼女は涙ぐんで
「ごめんなさい。私のせいなの…」
と彼があの日どうして事故にあったのかを教えてくれた
女の子が道路の向かいにいる母親を見つけて
走り出しそうとした時に、不幸にも車道をトラックがかなりのスピードを上げて走っていた。そしてその事に気がついた司が
庇ったみたいだった。
「それでね…、お兄さん言っていたの。最後に
『春の傍に居ないといけない』って泣いてたの」
女の子の言葉を聞いて、春は笑顔を浮かべながら涙を流し
女の子の頭を撫でた。
「泣かないで。彼の最後を教えてくれてありがとう」
女の子を安心させる為に春は意地でも満面な笑顔を作った。
そして、女の子の後ろ姿を見送った後に
彼の居るであろう空を見つめて
悲しく微笑んだ。
もう二度と逢えないけれど、
私にとってはかけがえない人だったよ。
春はそっと心の中で呟いた。
その時、一瞬だけそっとそよ風が頬を撫でて
通り過ぎた。
それが司からの贈り物のように思えて
春は喪失感を拭い去った。
彼が、本当は私をどう思っていたのかはもう知る術はない。
けれど、どう思っていようが私にとってはかけがえない人物で
この先例えに何が待っていようと
もう自分を卑下せずに生きて行く道標を彼から
沢山貰った。
私はきっとそれがあれば生きて行ける。
だから大丈夫。
そう思い、春は明るい方へと繋がっていると信じて交差点から一歩踏み出した。
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