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第3話 謎の青年
あの後数量限定のこの大学の幻のローストビーフ丼をご馳走になった
。幻と言われるだけはあって
口に入れた瞬間美味しさの余りに頬が痛くなった。
それぐらいの絶品だった。
究極のローストビーフ丼の値段はそれなりにするのだろうと思っていたのだが、まさかの800円という破格の値段で思わず目が飛び出しそうになった。
そして、午前だけで大学の授業は終わりとだということで
私たちはゆっくりと話をするために
木下さんのご自宅に向かうことになった。
サバサバした印象の木下さんのイメージからはかなりかけ離れている
ほどの可愛らしい部屋で数秒間、私は戸惑いを隠せなかった。
そんな様子を見て彼女は苦笑しながら部屋へと招き入れてくれた。
「大学では、あんまり詳しくは話ができなかったけれど
自分自身の生い立ちはなんとなくでも理解はできているという認識でいいんだよね?」
私は静かに目を閉じた。
その合図で木下さんも全てを悟ったかのようにそっかと小声で呟いた。
私の生い立ちは一般家庭とはかけ離れた環境で育った。
父親とは血の繋がりがなく、そして私を産んだ母親は私が中学3年の時に失踪した。
そして、父親の再婚相手と結婚したのは母親が行方不明になった一年後だった。
その当時は僅かに明るい希望を胸に抱いていたのだがそれも呆気なく散りさった。
恐らく相性が合わなかったのだろう。
でも、それも仕方がないのかも知れない。
再婚相手だろうと
赤の他人には変わりがないのだから。
そして、完全に孤立状態になったのは丁度記憶が曖昧になり始めていた高校2年生の時のことだった。
つまり現在の記憶の数ヶ月前に私は『両親』から見放されていた。
どうして母親が私を置いて家を出ていたのかは今でも分からない
ただ、私を一緒に連れて行くほどの愛情は無かったのは事実だった。
そして、再婚相手である新しい母親とは到底思えない人物は
私を家から追い出して1人で生きて行けと高校三年生の頃に告げたらしい。
その事になんの躊躇いもなかったらしいと木下さんから聞かされて
そりゃそうだろうと思った。
そんな家庭にいても何の意味があるのだろうか。
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