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マリーの瞳に映る世界は美しい
翌朝になりまずは流浪の民に合流するために出発することにした。ルオも元は流浪の民なので彼らがどんな場所を目指すのかなんとなく予想がつくと言う。ルオは自分で作った地図を広げた。
「行き先に水がなきゃ話にならん。水場はいくつかあるがゆっくり歩くと言っていたしここに来るまでの日数やこれから俺たちが歩いて行く日を考えると、多分ここだな」
指をさしたのは大きな森が描かれている場所。川、池、と書かれているので比較的豊かな土地のようだ。
「マリオネットの体を作ってる、なんて言った、なんとかって木」
「ヤクナの森か」
「木の名前は合ってるが一つ間違ってる。森じゃない、一つの木だ」
「は?」
ルオの言っている意味がわからずシャムは怪訝そうな顔でルオを見た。
「森にしか見えないだろうが、あれは一本の大きな木だ。幹だと思っている物は全部枝、本体は根っこみたいに地中に埋まっている」
嘘だろう、と思ったがふと思いあたる部分がありシャムは驚いた顔をした。近くにヤクナの木があればそこからマリオネットを作るだけでなく人々は家具などを作っていたはずだ。森だと信じていたものが一つの木なら、作られたものは全て同じ木だということになる。
以前マリーがそっと椅子に寄り添ったことがあった。マリーを見つけた場所からはだいぶ遠いところだったが、マリーか椅子、どちらかが売られて別の場所に移動したのだとしたら。あれはマリーと同じ木でつくられた椅子だった。だから寄り添ったのだ。
ああそうか、と。凄いことに気づいたシャムは自然と笑顔になっていた。
「何ニヤニヤしてんだ」
「いや、もしかして凄い発見をしたのかなと思って。この場所までの移動、マリーに道案内を任せてみよう」
「はあ? 冗談だろ、なんでそうしようと思うんだ」
「多分だけど。きっと、ヤクナの木を使ったマリオネットは他のヤクナの木がある場所を目指して移動することができる。世話になってた流浪の民、ヤクナの木でできた物を何か持っていたんじゃないのか」
言われてみれば、あの部族はヤクナの木でできた装飾品などを多く身に付けていた。道具や日用品に至るまでほとんどがその木でできているとハッカたちが言っていたような気がする。二人同時にしゃべってあまりにもうるさいのでほとんど聞いていなかったが。
「マリーが流浪の民の傍に行ったのは偶然じゃない、追いかけていたんだ。木が移動するならそれは生えてるんじゃなくてマリオネットしかいない。マリオネットがいれば人形師がいるかもしれないからな。ものすごい距離をわかったなら多分あっという間に追いつくよ」
ルオはぽかんと間の抜けた顔をしている。シャムの言葉が信じられないかのようだが、言われてみれば確かに当初マリーが通ろうとしていたルートはこの廃墟から部族がいたところまで一直線だった。
「信じていいんだろうな。永遠にこの地を放浪し続けるとか冗談じゃねえぞ」
「何言ってるんだよ。元流浪の民だろ、そうなったとしても別に何も問題ないじゃないか」
「ああ言えばこう言うなお前は。問題しかねえっつうのに」
がしがしと頭をかいて腹を括ったようにルオはシャムをラーに乗せた。
「ソイツは俺の言うことなんて聞きゃしねえだろうから何かあったらお前がちゃんと正してくれよ。荒野でくたばるなんざごめんだ」
その言葉を合図にしたかのようにルオもラーも歩き始める。マリーは先頭には行かずシャムの横に来るようにてくてくと歩いていた。おかげで全員横並びだ。
「マリー、ラーと一応この人間が干からびないように水場を経由していこう。あとはまあ、適当に道草しながら行こうか」
「そんな暇ねえわ」
「水場も道草だったんだけど、嫌ならいいよ一直線に行くから」
「ああ、もう。わかったよ、好きにしろ」
道草にはきっと価値がある。今まで通り過ぎるだけだった景色はゆっくりとその目に焼き付けながら歩いていくことができる。
「マリーの瞳に映る世界は、きっとすごく綺麗だよ。たくさん見て行こう」
瞳に雲一つない青空を映しながらマリーは歩く。一人と一匹増えた旅は、この先マリーに、シャムに何を見せてくれるのだろうか。
その答えはまだまだこれからだ。これから、探していく。マリーの瞳に映る世界を。
END
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